小説「新・人間革命」 雄飛 八 2017年6月23日

山本伸一との語らいで華国鋒主席は、十億を超える中国人民の衣食住の確保、とりわけ食糧問題が深刻な課題であるとし、まず国民経済の基礎になる農業の確立に力を注ぎたいと述べた。
農民の生活が向上していけば、市場の購買力は高まり、それが工業発展の力にもなるからだという。
その言葉から、膨大な数の人民の暮らしを必死に守り、活路を見いだそうとする中国首脳の苦悩を、伸一は、あらためて実感した。
政治は、現実である。そこには、人びとの生活がかかっている。
足元を見すえぬ理想論は空想にすぎない。
現実の地道な改善、向上が図られてこそ、人びとの支持もある。
また、伸一は、革命が成就すると官僚化が定着し、人民との分離が生じてしまうことについて意見を求めた。
華主席は、官僚主義の改革こそ、「四つの現代化」を進めるうえで重要な課題であるとし、そのために、「役人への教育」「機構改革」「人民による監督」が必要
であると語った。
指導的な立場にある人が、「民衆のため」という目的を忘れ、保身に走るならば、いかなる組織も硬直化した官僚主義に陥っていく。
ゆえに、リーダーは、常に組織の第一線に立ち、民衆のなかで生き、共に走り、共に汗を流していくことである。
また、常に、「なんのため」という原点に立ち返り、自らを見詰め、律していく人間革命が不可欠となる。
華主席は、五月末に訪日する予定であった。語らいでは、日中友好金の橋を堅固にしていくことの重要性も確認された。
この北京では、創価大学で学び、今春、帰国した女子留学生とも語り合った。
「今」という時は二度とかえらない。
ゆえに伸一は、一瞬たりとも時を逃すまいと決め、一人でも多くの人と会い、対話し、励まし、友好を結び、深めることに全精魂を注いだ。
文豪トルストイは記している。
「重要なことは、何よりもまず、今、自分が置かれた状況にあって、最高の方法で、現在という時を生きることである」(注)
 
小説『新・人間革命』の引用文献
注 『レフ・トルストイ全集第69巻』テラ出版社(ロシア語)