小説「新・人間革命」 雄飛 二十一 2017年7月8日

三十日の夕刻、山本伸一は福岡市博多区の九州文化会館(後の福岡中央文化会館)に着いた。
車を降りて最初に向かったのは、会館に集って来た同志のところであった。
多くの人たちは、会館には来たものの、伸一とは会えないのではないかとの思いがあった。
それだけに、彼が皆のところへ足を運び、「ありがとう! 皆さんは勝ったんです」と声をかけると、喜びが弾けた。
伸一の手を握り締めて離さぬ壮年や老婦人もいた。
一人の婦人が、持参してきた
雑誌を見せながら、「念願の料理店を開きました。店が雑誌に紹介されています。
ぜひ来てください」と語ると、伸一は「お伺いしますよ」と笑顔を向けた。
なんの分け隔てもない、信心で結ばれた人間の絆──これが創価家族である。
翌五月一日も、九州文化会館には、早朝から大勢の同志が訪ねて来た。
伸一は、会員の姿を見ると、「どうぞ、こちらへ」と言ってねぎらい、握手を交わし、記念
のカメラに納まった。
その人数がどんどん増えていった。運営にあたる男子部幹部は困惑した。
これでは対応しきれない。何よりも、先生がお疲れになってしまう!
彼は、来館者が、なるべく伸一に会わないように誘導していった。
だが、それに気づいた伸一は、あえて厳しい口調で言った。
「求めて会いに来た方々を、さえぎる権利など誰にもないよ」
会長辞任以来一年、思うように学会員と会えないなかで、満を持して開始された激励行である。
全同志と会い、全精魂を注いで励まそうというのが、伸一の決意であった。
男子部の幹部は、師の心を十分に汲み取ることのできなかった自身を恥じた。
この日、伸一は、「ぜひ来てください」と言っていた婦人部員の料理店にも足を運んだ。
死力を尽くす思いで、一人でも多くの同志と会っていった。
反転攻勢の「時」を、断じて逸するわけにはいかなかった。
師子よ立て! 今が勝負だ!──彼は心で叫び続けた。