小説「新・人間革命」 雄飛 三十二  2017年7月22日

関西文化会館に戻った山本伸一は、設営グループ「鉄人会」メンバーが集っていることを聞くと、「お会いしよう」と、喜び勇んで励ましの語らいを重ねた。
実は、メンバーは伸一に使ってほしいと、イスを作って届けていた。
彼は、その真心に応えたかった。また、いつも陰の力として設営に奮闘してくれていることに、心から感謝の言葉を述べたかったのである。
「ありがとう。皆さんの苦労を、私はよく知っています。
作ってくださったイスにも、何度も座らせていただきました。
最大の感謝をもって、その心を受けとめております。濁りのない、清らかな心と心で結ばれているのが、創価の世界ではないですか。
私には健気な一念が痛いほどわかります」
伸一の言葉に、目を潤ませる人もいた。もとより、見返りを欲しての作業ではなかった。
必死に広宣流布の指揮を執る師のために何かしたいとの、清らかな信心と弟子の信念の発露にほかならなかった。
それゆえに、その行為は、美しく、尊かった。
彼らは、伸一が自分たちの思いを知ってくれているというだけで満足であった。
伸一は、その心根に、最大の讃辞を贈り、最高の敬意を表したかった。
日蓮大聖人が、「心こそ大切なれ」(御書一一九二ページ)
と仰せのように、信心の世界にあって肝要なのは「心」である。
引き続き彼は、人材育成グループである「関西同志の集い」の勤行会に出席した。
「真の人材とは、地涌の菩薩の使命を自覚し、より広く、深く法を知らしめていく人である。
より大勢の人の依怙依託となれる人である。
聡明で、理に適い、人びとを納得させられる人である。
次の後継の人を育成できる人である。また、良識の人であり、皆に、安心と希望と確信を与えられる人である。
そのために自らを磨き鍛えていただきたい」
彼は懸命に訴え抜いた。
「励ます」という字は「万」に「力」と書く。全力を注ぎ込んでこそ、同志の魂を揺り動かす激励となるのだ。