小説「新・人間革命」 雄飛 五十四 2017年8月17日

二月二十六日、山本伸一は、パナマからメキシコへ向かった。
メキシコの正式な訪問は、十六年ぶり二度目である。
パナマでも、メキシコでも、空港では国営テレビや新聞社の記者会見が待っていた。
それは、学会の平和・教育・文化の運動が、世界各地で高く評価されてきたことを裏づけるものであった。
メキシコ市では、会館を初訪問したほか、メキシコ市郊外にある古代都市テオティワカンの遺跡の視察や、日本・メキシコ親善文化祭などに出席した。
三月二日には、大統領官邸を表敬訪問し、ホセ・ロペス・ポルチーヨ大統領と会見した。
さらに、図書贈呈のためメキシコ国立自治大学を訪れ、総長らとも会談した。
大学を後にした伸一は、途中、車を降り、同行していた妻の峯子と市街を歩いた。
広々とした目抜き通りに出ると、陽光を浴びて独立記念塔が、空高くそびえ立っていた。
柱の上に設置された、金色に輝く像は、背中の翼を大きく広げ、右手に勝利の象徴である月桂冠を、左手には勝ち取った自由を表す、ちぎれた鎖を持っている。
伸一が、「ここだったね」と峯子に言うと、彼女も「そうでしたね」と答える。
実は、このメキシコの光景を、恩師・戸田城聖は、克明に話していたのである。
それは、彼が世を去る十日ほど前のことであった。伸一が、既に病床に伏していた戸田に呼ばれ、枕元へいくと、にこやかな表情を浮かべて語りかけた。
「昨日は、メキシコへ行った夢を見たよ。……待っていた、みんな待っていたよ。
日蓮大聖人の仏法を求めてな。行きたいな、世界へ。広宣流布の旅に……」
体は衰弱していても、心は一歩も退くことなく、世界を駆け巡っていたのだ。
それが、広布の闘将の魂であり、心意気である。
そして、戸田は、夢のなかで見たという、メキシコ市の中心にそびえ立つ独立記念塔と街の景観を語っていったのである。