小説「新・人間革命」 雄飛 五十九 2017年8月23日

十三日午前、山本伸一と峯子は、モスクワ市内のノボデビチ墓地を訪れ、四年前に死去したモスクワ大学のR・V・ホフロフ前総長の追善を行ったあと、ホフロフ宅を訪問した。
伸一たちは、エレーナ夫人、長男のアレクセイ、次男のドミトリーと、亡き総長を偲びながら、語らいのひとときを過ごした。
長男は、モスクワ大学の物理学者であり、次男も大学院で物理学を学んでいた。
遺族は、伸一たちの訪問を心から喜び、代表して長男が、感謝の思いを語り始めた。
「父に敬意を表して、わざわざおいでいただき、ありがとうございます。
今回の先生のソ連訪問は、天候にも恵まれ、天も祝福しているかのようです。
今、モスクワは、長い冬が去り、緑が萌え、自然がみずみずしい生命を回復する時を迎えています」
すかさず伸一が言った。
「ご一家も今、同じような時期に入りました。悲しみの冬を越え、希望が萌え、生命の回復の時がきました。
あとに残ったご家族が元気であることを、亡き総長も願望していることでしょう。
特にご子息は、学びに学び、お父様をしのぐような大学者になり、社会に貢献するとともに、幸せになってください」
アレクセイが頷きながら語った。
「父は、いつも先生のことを話していました。直接、お目にかかれて嬉しい限りです」
「お父様のことを偲びながら、これから、何回でもお会いしましょう。
いつか日本にも、創価大学にも来てください」
夫人が、しみじみとした口調で言った。
「先生とは、ずっと一緒にいたような親しさを感じます」
心は響き合い、語らいは弾んだ。
ホフロフ家から、遺稿を収めた論文集と、山で写した故総長の写真が贈られた。
「山登りが好きな人でした」と夫人が目を細めた。
一家との交流は、その後も重ねられていった。
地中深く根が張り巡らされ、草木が繁茂するように、民衆の大地深く友情の絆が張り巡らされてこそ、平和の緑野は広がる。