小説「新・人間革命」 雄飛 六十 2017年8月24日

山本伸一は、正午にはモスクワ大学を訪問し、ログノフ総長と対談した。
総長は、ソ連科学アカデミー正会員であり、著名な理論物理学者でもある。
実は、この年の四月に総長が来日し、会談した折、日ソの友好と人類の平和のために、教育交流の重要性を語り合う対談を行っていきたいとの要請があったのである。
伸一は、未来に平和の思想と哲学を残すために、対談を行うことに合意し、この訪ソまでに、総長への多岐にわたる質問を用意して会談に臨んだのである。
そして、「現代科学をめぐる諸問題」「宗教と文学」「戦争と平和と民族」「文化交流への課題」など、対談の骨子について語ると、総長も大いに賛同した。
会談に先立って、ログノフ総長に、創価大学名誉教授の称号が贈られた。
その際、総長は、人類の平和を守る大学の使命に触れ、核兵器の問題について、次のように語った。
「もし、今、核兵器が使用されたならば、人類は完全に滅亡してしまう。
したがって、知恵ではなく、力で平和が守られるという考えを捨てるべきです。
そうでないと核戦争を認めることになってしまう」
語らいは、モスクワ大学付属アジア・アフリカ諸国大学の主任講師であるL・A・ストリジャックの通訳で進められた。
「核戦争は断じて回避しなければならないし、人類存続の道は文化交流による平和の建設しかない」というのが二人の強い確信であり、共鳴音を奏でながら意見交換が続いた。
二人の語らいは十三回に及び、その間に、一九八七年(昭和六十二年)六月には、対談集『第三の虹の橋──人間と平和の探求』を出版。続いて九四年(平成六年)五月には『科学と宗教』が発刊されている。
世界の平和は、心の結合から始まる。
そして、「人間」「平和」という原点に立てば、社会体制やイデオロギーの壁を超えて、人と人は理解し合い、共感し合い、心を結び合える
──それを伸一は、世界に示したかった。