小説「新・人間革命」 雄飛 六十一 2017年8月25日

モスクワ大学を訪問した十三日の夕刻には、「日ソ学生友好の夕べ」が開催された。
大学正面広場で行われた、平和の天使・富士鼓笛隊の華麗なパレードで幕を開け、その後、同大学の文化宮殿に会場を移して、友情と平和の祭典が繰り広げられたのである。
創価大学銀嶺合唱団や壮年・婦人代表団らが、「黒田節」「母」などを披露し、「カチューシャ」を歌った時には、手拍子が鳴り響き、場内は一体となった。
モスクワ大学側も、ピアノや室内楽団の演奏、民族衣装に身を包んでのロシア民謡の合唱や踊りなど、熱演を重ねた。
やがて、両大学の合唱団によって、「四季の歌」が日本語で、「友好のワルツ」がロシア語で歌われた。日ソの人びとの心と心が、見事にとけ合っていった。
会場の文化宮殿は、六年前(一九七五年)の五月、山本伸一が、「東西文化交流の新しい道」と題して講演した、思い出深い場所である。
その時、彼は、文化交流によって、精神のシルクロードを開き、世界を縦横に結ぶことができると力説した。
今、眼前で、日ソの青年らによる文化と友情の交流が行われ、確かに精神のシルクロードが結ばれようとしていることを、伸一は感じていた。
一つ一つの演目が終わると、身を乗り出すようにして大きな拍手を送った。
翌十四日午後、伸一たちは、クレムリンを訪れ、ニコライ・A・チーホノフ首相と会見した。
この日が首相の七十六歳の誕生日にあたることから、彼は、会見の冒頭、花束を贈呈した。
そして伸一が、「自分は政治家でも、経済人、外交官でもありませんが、平和を愛する一市民として率直に進言させていただきたい」と述べれば、首相が「喜んで!」と応じるなど、和気あいあいとした会談となった。
人間は本来、等しく平和を希求している。
その心を紡ぎ出すのは、美辞麗句や虚飾の言ではない。胸襟を開いた、誠実な人間性の発露としての、率直な対話である。