小説「新・人間革命」 雄飛 六十二 2017年8月26日

山本伸一は、チーホノフ首相に語った。
「全人類の願望は戦争の阻止にあります。
その意味から、貴国のブレジネフ書記長、チーホノフ首相には、モスクワを離れて、スイスなどよき地を選んで、アメリカ大統領、そして中国首脳、日本の首脳と徹底した話し合いを行ってくだされば、世界中の人びとが、どれほど安堵できるでしょうか。
世界平和のために、ぜひとも首脳会議を呼びかけ、戦争には絶対反対するための話し合いを続け、安心感を全人類に与えていくことが大事です」
伸一は、日ソ関係にも言及していった。
条約うんぬんの前に、日本人の心を知り、相互の信頼を育むための文化交流が必要です。
さらに、過去の大前提にとらわれず、あくまでも進歩的に、両国民が納得できるようなトップ会談を重ねていくべきです」
チーホノフ首相は、両国間の経済問題や貿易問題に触れながら、「文化交流は一歩遅れているかもしれません。
あなたの主張は大事なことです」と所感を述べ、今後、平和・文化の交流を続けていく意向を明らかにした。
また、伸一は、ブレジネフ書記長に宛てた、ソ連招聘の御礼の親書を首相に手渡した。
彼は、米ソ首脳会談について、一九八三年(昭和五十八年)と八五年(同六十年)の1・26「SGIの日」記念提言でも訴えている。
米ソ間で厳しい対立が続いていることを、多くの人びとが危惧していたからである。
八五年(同六十年)、ソ連ゴルバチョフ書記長が誕生すると、冷戦の終結へ舵が切られた。
同年十一月、スイスのジュネーブで、レーガン米大統領との米ソ首脳会談が実現し、東西の対話は加速していった。
八九年(平成元年)十二月には、ゴルバチョフとブッシュ米大統領がマルタで会談。
冷戦を終結させ、両国が協調して新しい世界秩序づくりへ踏み出す宣言をしたのである。
翌九〇年(同二年)、伸一は、ソ連の初代大統領となったゴルバチョフと初会見した。
二人は、その後も親交を結び、対談集『二十世紀の精神の教訓』を発刊している。