小説「新・人間革命」 暁鐘 十二 2017年9月14日

山本伸一は、人間自身のなかに「神」を見いだす、詩人ボテフらの考え方は、形態こそ違え、ブルガリアの掲げる社会主義ヒューマニズムの理想につながり、さらにそれは、一切の人びとに、仏性という尊極無上の生命が具わっていると説く、仏教の人間観さえ想起させると述べた。
また、人間の内なる「神」というボテフの命がけの叫びは、「宗教であれ、何であれ、『人間のため』に存在している」ことを訴えるものにほかならないと強調した。
宗教も、政治も、あるいは、科学も、文化、芸術も、この原点を忘却した時、たちまち堕落の坂を転げ落ちてしまうというのが、伸一の一貫した主張であった。
次いで彼は、オスマン帝国の「軛(くびき)の下」で起こった、1876年の「四月蜂起」に言及した。そして、その民族精神の高揚こそ、何にも増して人間の尊厳を守り抜こうとする、やむにやまれぬ生命のほとばしりであったとして、ブルガリアの担うべき役割を語った。
「貴国の大地にへんぽんと翻る、この人間性の旗が失われぬ限り、道は、民族の枠を超えて、21世紀の人類社会へと、はるかに開けているでありましょう。それはまた東西両文明が融合し、平和と文化の華咲く広々とした『緑野』であることを、私は信じてやまないものであります」
最後に、ブルガリアのシンボルが獅子であることに触れ、自分も一仏法者として獅子のごとく、人びとの幸福と平和のために世界を駆(か)け巡っていきたいと決意を披瀝。
参加者に、「獅子のごとく雄々しく、獅子のごとく不屈に、人間の自由と平和と尊厳の旗を振り抜いていっていただきたい」と念願し、約40分にわたる講演の結びとしたのである。
盛大な拍手が、講堂内に鳴り響いた。
この日の名誉博士号の授与を記念して、記帳を求められた伸一は認めた。
 
 「学問のみが世界普遍の真理なるか
  学問が世界平和を左右しゆく真理なるか
  学問が未来の青年への正しき指標なるか」