小説「新・人間革命」 暁鐘 十九 2017年9月22日

あいさつに立ったジフコワ議長は、ブルガリアの「文化の日」の意義に触れ、この日は、キリル文字の原型を創ったキュリロス(スラブ読みはキリル)と兄メトディウスの永遠の功績を讃え、祝賀する日であることを語った。
──かつてブルガリアなどで使われているスラブ系言語を表記できる文字はなかった。
世紀にギリシャ人の宣教師であったキリル兄弟は、聖書等をスラブ系言語に翻訳するため、ギリシャ文字をもとにグラゴール文字を考案した。
その後、弟子たちが修正を加えて、ブルガリアキリル文字ができ、ロシアなど、広くスラブ語圏に伝わっていった。
議長は、「平和の旗」の塔に刻まれた「調和」「創造」「美」の三つの言葉とともに、世界平和をめざしていきたいと呼びかけた。
次いで山本伸一があいさつに立った。
しとしとと雨が降り始めていたが、傘を差さずにマイクに向かった。
「日本を代表して、かわいい、大切な皆さんに、ごあいさつを申し上げます」
こう語ると彼は、用意してきた原稿を、ブルガリア語で通訳に読んでもらうだけにした。
少しでも、子どもたちが雨に打たれる時間を短くしたかったのである。
その原稿で彼は、「勇敢ななかにも、優しい思いやりにあふれた人に」「体と心を鍛えに鍛えていっていただきたい」と訴えた。
また、人生そのものが闘いの異名であり、皆の夢多い前途にも幾多の試練や苦難が待ち受けているであろうと述べ、その時こそ、「障害や苦難は力を鍛える格好の場であると心に刻んで、雄々しく、たくましく成長していってください」と望んだ。
子どもたちの大拍手が、丘に舞った。
いよいよフィナーレを迎えた。
世界各国から贈られた「平和の鐘」が鳴り響くなか、子どもの手で、聖火台に「平和の火」が点火され、赤々と燃え上がった。
子どもたちの心に平和の火がともされるならば、二十一世紀の地球は、平和の光が満ちあふれる、輝く星となる。