小説「新・人間革命」 暁鐘 二十七  2017年10月2日

山本伸一は、青年たちに、未来を託す思いで語っていった。
若き力が、いかんなく発揮されてこそ、新しい時代は開かれるからだ。
ルネサンスには、人間の解放があり、自由があり、それは、人間という原点への目覚めをもたらし、まことに新しき時代を打ち立てました」
その担い手が、十四世紀にルネサンスの先駆的な役割を果たした詩人ダンテをはじめ、ボッカチオ、マキャベリ、ダ・ビンチ、ミケランジェロラファエロなど、フィレンツェの詩人、思想家、芸術家たちであった。
ルネサンスの波は、ローマなど、イタリアの各都市に広がり、さらに、フランス、ドイツ、イギリスなど、西ヨーロッパからヨーロッパ全体に及び、宗教改革にも結びついていくのである。
ルネサンスは、「古代に帰れ」「古典に帰れ」「人間に帰れ」との思潮のもと、人間を「神」と「教会」の軛から解き放ち、その限りない可能性を開花させていった。
それは、まぎれもないヒューマニズムの勝利であり、人間的自由の讃歌であった。
伸一の声に力がこもった。
「しかし、人間は、真の自由を手にすることができただろうか! 
本当に人間は、歴史の主役の座を手にしたか!
残念ながら、違うといわざるを得ない。
 むしろ、人間は、『制度』の、『イデオロギー』の、あるいは『科学』や『機械』の奴隷になってしまっているといってよい。
また、肥大化するエゴイズムのぶつかり合い、そして、精神の放縦の果てに待ち構える独裁、ファシズムの魔手
──これが、現代社会の憂慮すべき現実といえる。
つまり、ルネサンスによって解き放たれた人間は、自身の心を師とし、欲望や感情に翻弄され、片や、それを抑え込もうとする外なる力に縛りつけられ、求め続けた幸福から、著しくかけ離れた時代をつくってしまった」
仏典には、「心の師とはなるとも心を師とせざれ」(御書一〇二五ページ)とある。
 
小説『新・人間革命』語句の解説
◎ダンテなど/ダンテ(一二六五~一三二一年)は、叙事詩神曲』で後世に多大な影響を与えた。
ボッカチオ(一三一三~七五年)は、近代小説の祖といわれる作家。著書に『デカメロン』など。
マキャベリ(一四六九~一五二七年)は、近代政治学・史学の祖とされ、『君主論』などを著す。
ダ・ビンチ(一四五二~一五一九年)は、レオナルド・ダ・ビンチのこと。
芸術、科学、解剖学、土木工学など、多様な分野で活躍。絵画に「モナ・リザ」「最後の晩餐」など。
ミケランジェロ(一四七五~一五六四年)は、彫刻、絵画、建築など、幅広い分野に優れた芸術家。彫刻では「ダビデ」など。
ラファエロ(一四八三~一五二〇年)は、画家、建築家で、古典主義絵画を確立させた。