小説「新・人間革命」 暁鐘 二十九 2017年10月4日

雲一つない抜けるような青空が広がった。
三十一日午後、山本伸一が出席して、フィレンツェ郊外のセッティニャーノにある庭園で、イタリア広布二十周年を記念する友好文化総会が開催された。
これには、イタリア各地から集ったメンバー七百人のほか、日本からの親善交流団なども加わり、日伊友好の陽気で賑やかな祭典となった。
イタリアのメンバーにとっては、自国での初めての大行事である。
皆、何日も前から、準備や練習に励んだ。
舞台一つ造り上げるのも一苦労であった。
皆、さまざまな作業に精を出し、演目の練習に努め、一人で何役もこなしながら、この日を迎えたのだ。
会場に到着した伸一は、真っ先に、陰で行事を担っている運営役員の青年たちのもとへ向かい、全力で激励した。
「一緒に、記念の写真を撮りましょう」
男子部、女子部に分かれてカメラに納まったあと、彼は言った。
「御書には『地涌の義』との言葉がある。広宣流布の使命を担い、人びとを救うために、陸続と地涌の菩薩が出現することを意味しています。
皆さんは地涌の菩薩なんです。
皆さんには希望もあるでしょう。
また、大きな悩みもあり、挫折もあるでしょう。
人生とは、苦難との闘争であるといえるかもしれない。
しかし、すべての苦難、苦悩は、それを乗り越えて、仏法の偉大なる力を証明するためにある。
つまり、苦悩の宿命があるからこそ、それを打開することによって、仏法の真実と正義が立証でき、仏法を流布していくことができる。
そして、地涌の菩薩としての使命を果たしていくことができるんです。
いわば、苦悩は、地涌の使命を果たしていくうえで、必要不可欠な条件なんです。
ゆえに、宿命は即使命であり、どんなに激しい宿命の嵐が吹き荒れようが、乗り越えられないことなど絶対にありません」
フィレンツェでの、多くの青年の誕生は、伸一に「地涌の義」を強く確信させ、世界広布への大いなる希望を感じさせた。