小説「新・人間革命」 暁鐘 三十八 2017年10月16日

山本伸一の搭乗機は、右手に白雪を頂くアルプスの山々を望みながら、地中海沿岸のフランス第二の都市マルセイユへ向かった。
現地時間の六月五日午後一時過ぎ、マルセイユの空港に到着した一行は、エクサンプロバンスのホテルで、直ちにフランスでの諸行事について打ち合わせを行った。
さらに伸一は、トレッツにある欧州研修道場に移動し、午後六時から開催されたヨーロッパ代表者会議に出席した。
これには、十三カ国の代表が集い、欧州広布に向けて、種々、協議が行われた。
この席で、ヨーロッパ各国が一段と力を合わせ、希望の前進を開始していくため、ヨーロッパ会議議長の川崎鋭治のもと、新たにイギリスの理事長であるレイモンド・ゴードンと、ドイツ理事長のディーター・カーンが同会議の副議長に、日本で高等部長、男子部主任部長などを歴任してきた高吉昭英が書記長に就任することが決議された。
高吉は、高校生の時から人材育成グループの一員として、伸一が育んできた青年で、大学院で学んだあと、本部職員となった。この人事は二十一世紀への布石であった。
伸一は、参加者に訴えた。
「今回の訪問は、ヨーロッパ新時代の夜明けを告げるためです。
青年たちが、次代を担う使命を自覚し、生命尊厳の哲学を自身の生き方として確立し、社会貢献の道を歩んでいくならば、現代社会にあって、分断された人と人とを結んでいくことができる。
そこから、平和も始まります。
ゆえに私は、青年と会い、語らいに徹していきます。
そして、行動を通し、心の触れ合いを通して、皆の魂を触発していきます。
人は、心から納得し、共感し、感激し、よし、私も立ち上がろう!と決意して、自発的に行動を開始した時に、最大の力を発揮することができる。
この触発をもたらしてこそ、励ましなんです。
それは、誠実と全情熱を注いでの対話であり、生命と生命の打ち合いです」