小説「新・人間革命」 暁鐘 六十七 2017年11月20日

一九八〇年(昭和五十五年)の十月、山本伸一は、北米指導でカナダを訪問する予定であった。
しかし、シカゴの空港を発つ直前にエンジントラブルがあり、訪問
を中止せざるを得なかった。
皆が待っていてくれたことを思うと、心が痛んだ。
この時、伸一は、議長のテルコ・イズミヤに和歌を贈った。
 
「忘れまじ カナダの天地に 君立ちて
   広布の夜明けは ついに来りぬ」
 
また、訪問先のロサンゼルスにカナダの代表を招いて、語らいの機会をもった。
そのなかにテルコ・イズミヤと共に、夫のヒロシ・イズミヤの姿もあった。
温厚な、端正な顔立ちの紳士である。伸一と同じ年齢であるという。
伸一は、固い握手を交わしながら、彼が信心したことを心から祝福し、二人で記念のカメラに納まった。
夫の横顔を見るテルコの瞳には、涙が光っていた。
──以来八カ月、伸一のカナダ訪問が実現し、今、イズミヤ夫妻は、一行をトロント国際空港に迎えたのである。
このカナダ滞在中、伸一は、ヒロシ・イズミヤと一緒に行動するように努めた。
カナダの法人の運営面を担う理事長である彼には、メンバーを守り抜く精神をよく学んで、身につけてほしかったのである。
また、組織の中心者として広布の道を切り開いてきた議長のテルコに、伸一は言った。
「ご主人の協力がなかったら、ここまでこられなかったでしょう。
カナダの組織が大きく発展できたのは、ご主人のおかげですよ」
人は、物事が成功した時には、ともすれば自分の力であると思いがちである。
しかし、成功の陰には、必ず、多くの人の尽力があるものだ。
常に、そのことを忘れず、謙虚に、皆に感謝の心をもって生きることができてこそ、常勝のリーダーとなり得るのである。
伸一のカナダ訪問二日目となる二十二日、トロント市内のホテルの大ホールで、約千人の同志が参加し、カナダ広布二十周年記念総会が盛大に行われた。
それは、新世紀への、希望あふれる新しき出発の集いとなった。