小説「新・人間革命」 暁鐘 六十八 2017年11月21日

カナダ広布二十周年記念総会に出席した山本伸一は、約二十一年ぶりにカナダを訪問できた喜びを語るとともに、初訪問の思い出に触れながら、一人立つことの大切さを訴えた。
「『0』に、いくら多くの数字を掛けても『0』である。
しかし、『1』であれば、そこから、無限に発展していく。
このカナダ広布の歴史は、イズミヤ議長が、敢然と広宣流布に立ち上がったところから大伸展を遂げ、今や約千人もの同志が集うまでになった。
すべては一人から始まる。
その一人が、人びとに妙法という幸福の法理を教え伝え、自分を凌ぐ師子へと育て上げ、人材の陣列を創っていく──これが地涌の義であります。
こうした御書の仰せを、一つ一つ現実のものとしていくことこそ、私ども創価学会の使命であり、それによって、御書を身で拝することができるのであります」
ここで伸一は、今回、ソ連をはじめとする訪問国で、政府要人や有識者と会談を重ねてきたことを述べた。
「そこでは、人類にとって平和こそが最も大切であることを訴え続けてきました。
万人が等しく『仏』の生命を具えていると説く仏法こそ、生命尊厳を裏づける哲理であり、平和思想の根幹をなすものです。
また、そこには、他者への寛容と慈悲の精神が脈動しています。
その思想は、戦争を賛美し、民衆を隷属させて、死に駆り立てる勢力とは、原理的に対決せざるを得ない。
ゆえに学会は、戦時中、国家神道を精神の支柱に戦争を遂行する軍部政府から、弾圧を受けたんです。
私は、政治家でも、外交官でも、また、経済人でもありません。
しかし、平凡な一市民として、一個の人間として、仏法を根底に、平和実現のために対話を続けています。
それは、人間は等しく尊厳無比なる存在であると説く仏法の精神を、あらゆる国の人びとが共有し合い、国境を超えた友情の連帯を強めていくことこそ、最も確実なる平和への道であると確信するからです」