小説「新・人間革命」 暁鐘 七十一 2017年11月24日

中華料理店にあった『聖教グラフ』は、太田美樹が、学会のすばらしさを知ってほしくて、オーナーや従業員に見せるために渡したものであった。
従業員の一人が、山本伸一に言った。
「ヤマモト・センセイのことは、いつも太田さんから聞かされ、グラフの写真も見ていますので、よく知っていますよ。お会いできて嬉しいです」
伸一は、皆と握手を交わし、自分たちが宿泊しているホテルの名前を告げて別れた。
この日、太田は旅行から帰り、中華料理店に土産を持って立ち寄ったところ、伸一たち一行が訪ねて来たことを知らされたのだ。
創価学会の会長である山本先生が、全く面識のない自分を訪ねて来るわけがないと半信半疑であったが、ともかく一行が宿泊しているホテルへ向かった。
伸一は、妻の峯子とともに、太田を温かく迎えた。ここで彼女は、カナダ人の男性から求婚されており、どうすべきか迷っていることを話した。
伸一は、励ました。
──幸福は彼方にあるのではなく、自分の胸中にあり、それを開いていくのが信心である。強盛に信心に励んでいくならば、いかなる環境であろうが、必ず幸せになれる、と。
「だから、どんなに辛いことがあっても、決して退転しないということです。
世界中、どこに行ったとしても、着実に、謙虚に、粘り強く、最後まで信心を貫いていくことです」
幸福は、広宣流布の道にこそある。
太田は、数年後に、その男性と結婚して、カナダに渡ったのである。
伸一は、今はミキ・カーターと名乗るようになった彼女と、夫、その子息であるスキー場の支配人と語り合った。
彼は、婦人が、あの時の指導を胸に、信心を貫いてきたことが、何よりも嬉しか
った。十七年前に植えた種子が、風雪の時を経てカナダで花開いていたのだ。励ましという種子を植え続けてこそ、広布の花園は広がる。