小説「新・人間革命」 勝ち鬨 二十 2017年12月29日

山本伸一は、高知の勤行会が行われた、この十三日も、勤行会参加者をはじめ、各部の友や役員などを激励し、多くのメンバーと記念のカメラに納まった。
そして、その間にも、「紅の歌」の推敲を続けた。
歌詞を直すたびに、青年たちに伝えた。
作曲を担当する杉沼知弘は、懇談会での伸一のハミングをもとに、曲づくりを始め、一応、かたちにした。
十三日夕刻、伸一が道場内を視察し、講堂をのぞくと、有志が、直しを反映させた歌を合唱し、カセットテープに録音している最中であった。
伸一は、しばらく合唱を聴くと、曲についての感想を作曲者の杉沼に伝えた。
「曲が少し難しすぎるように思う。もっと歌いやすい、さわやかなものにしよう」
夜、曲が入ったカセットテープが、伸一のもとに届いた。それを聴くと、彼は言った。
「いい曲が出来た。これで曲は決まりだ。今のままでは、歌詞が曲に負けてしまっている。歌詞も、もっと、いいものにしよう」
伸一は、さらに歌詞を練りに練った。
十四日、伸一は、四国研修道場で、また、訪問した四国文化会館や四国婦人会館でも、歌のテープを聴き、推敲を重ねた。
夜、四国の壮年・男子部の代表と風呂に入った時にも、歌詞の検討が続いた。
男子部からは、この歌を四国男子部の歌ではなく、広く全男子部の愛唱歌として、全国で歌いたいとの要請が出されていた。
「それならば、さらにすばらしい、最高のものにしたいね」
彼は、入浴後も、ほかに直すところはないか”“もっと、よくすることはできないかと、一節一節を、一語一語を、丹念に見直していった。
創造とは、安易に妥協しようとする自身の心との戦いであるともいえよう。
その心に打ち勝ち、極限まで、挑戦、努力、工夫を重ねていってこそ、新しき道は開かれる。
伸一は、その創造の闘魂を、後継の青年たちに伝えたかったのである。