小説「新・人間革命」 誓願 百十六 2018年8月11日
ネパールでは、十一月一日、カトマンズ市の王宮に、ビレンドラ国王を表敬訪問した。
そこでは、"人類の教師"釈尊が残した精神遺産を「智慧の大光」「慈悲の大海」の二つの角度から考察し、自他共の幸福を願う人間主義の連帯こそが、それぞれの国の繁栄を築き、人類全体の栄光を開く光源になると主張。
三日、伸一自身も同大学で、教育大臣(総長代行)から名誉文学博士の称号を受けた。
ネパールは美しき詩心の大国である。国の豊かさは人びとの「心」の光で決まる──伸一は謝辞で強調した。
この日、彼は、ネパールの友に案内され、カトマンズ市郊外の丘に車で向かった。
「世界に冠たるヒマラヤの姿を、ぜひ、見てほしい」との友の思いに応えたかったのである。
夕暮れが迫り始め、ヒマラヤは、乳白色の雲に覆われていた。
しかし、伸一たちが到着した時、雲が割れ、束の間、ベールを脱いだように、雪を頂いた峨々たる山並みが姿を現した。
夕日に映えて、空は淡いバラ色に染まり、山々は雄々しく、そして神々しいまでの気高さにあふれていた。
伸一は、夢中でシャッターを切った。
ほどなく、ヒマラヤの連山は、薄墨の暮色に包まれ、空には大きな銀の月が浮かんだ。
彼を遠巻きにするように、二十人ほどの少年少女が物珍しそうに見ていた。
伸一が手招きすると、はにかみながら近付いてきた。
子どもたちの瞳は宝石のように輝いていた。