名誉会長 「牧口先生とカントを語る」 (4) 2001年11月18日

価値を探求して日蓮仏法に到達

一、牧口先生が、「価値論」を含(ふく)む『創価教育学体系』を著(あらわ)されたのは、日本を覆(おお)う教育の諸問題を打破し、子どもたちを「幸福」に導く教育を実現したい、との思いからであった。

社会の行き詰(づ)まりの根底には、哲学や思想、教育の行き詰まりがあることを、先生は鋭(するど)く洞察(どうさつ)しておられた。

哲学の中心課題の一つである「価値」について、教育実践の中で、全力で探求していかれた。

人生の目的とは何か。その実現のために、何を「価値」とし、その価値を、どう「創造」していくのかー

こうした根本の問いに答える大哲学こそ、日蓮大聖人の仏法であると、牧口先生は発見された。

新たな哲学の地平を開く「価値論」は、人生の目的である「幸福」を全人類にもたらす指導原理ともなったのである。

日本が国家主義への傾斜(けいしゃ)を強める中、牧口先生は〝教育に関する展望をもて!″″価値論を根本哲学として取り上げよ!″と主張された。そして、その魂である大聖人の仏法を、声高く叫び続けていかれたのである。

牧口先生の、獄中からの最後のはがきには、こう記されている。(昭和19年(1944年)10月13日付)

「カントノ哲学ヲ精読(せいどく)シテ居(い)ル。百年前、及(およ)ビ其(その)後ノ学者共(ども)ガ、望(のぞ)ンデ、手ヲ着(つ)ケナイ『価値論』ヲ私ガ著(あら)ハシ、而(し)カモ上ハ法華経ノ信仰二結ピツケ、下、数千人二実証シタノヲ見テ、自分ナガラ驚(おどろ)イテ居ル。コレ故(ゆえ)、三障四魔(さんしょうしま)ガ紛起(ふんき)スルノハ当然デ、経文通リデス」

一、創価大学大学院で学ぶ伊藤貴雄さんが、諸先生方の研究を踏まえ、若き日の牧口先生とカントについて報告してくださった。 それによると、50代で『創価教育学体系』を執筆されるまでの間に、著作や文献から、いくつもの接点が確認される。

牧口先生が公刊した最初の論文は、24歳の時のもので、「観念類化(かんねんるいか)作用」という題である(明治29年『北海道教育雑誌』第39、40号に掲載)。

この観念類化という言葉は、カントの代表作『純粋理性批判』の影響のもと、カントを師と仰(あお)いだ教育学者のヘルパルトが用(もち)いた言葉である。

26歳の時の論文にも「カント」の名が見える(「パーカー氏の所謂(いわゆる)学校に加(くわ)ふべき社会的趣味の意義如何(いかん)」)。

また牧口先生は、『人生地理学』出版後の明治37年、32歳の時に「茗渓(めいけい)会」(東京高等師範学校の同窓会)が発行する雑誌『教育』の発行兼(けん)編集者に就任した。

この雑誌『教育』に、哲学者の朝永三十郎氏(ともながさんじゅうろう)〈ノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎氏の父〉が、「カント以後に於(お)ける唯心論(ゆいしんろん)の発展」と題する論文を寄稿している(第59号・第62号、いずれも明治38年)。

さらに牧口先生は、大正6年ごろ、カントを論じた一冊の本に出あう。

左右田(さうだ)喜一郎著『経済哲学の諸問題』である。先生が、47歳のころであった。(左右田氏は、ドイツで新カント派の哲学者リッケルトに師事)

牧口先生が熟読されたこの『経済哲学の諸問題』には、「カント認識論と純理経済学」という論文が収められている。

「嫉妬と忘恩は悪魔的悪徳」

一、カントの言葉は、人生に深い示唆(しさ)を与えてくれる。

「嫉妬、忘恩、他人の不幸をよろこぶ気持ち・…それは悪魔的悪徳と名づけられよう」(飯島宗享・宇都宮芳明訳)

悪徳のなかでも最大のものが「嫉妬」であり、「忘恩」であると、カントは断じている。

また、「みずからの決意を実行に移(うつ)すことをいつも延期してしまうような人間によっては、多くのことは実行されえないままである」 (加藤泰史訳)。

「いつか」ではない。「今」である。大切なのは「ただちに実行すること」である。

カントは、自(みずか)らの哲学のままに生きた「求道者(きゅうどうしゃ)」であった。そこにも、彼の偉大さがある。 そして、「私は私の道を行くであろう。それを歩みつづけることを何ものも妨げることはできない」 (浜田義文訳)と。

カントの若き日の「宣言」である。彼は、誓いのままに、生涯を真理の探究に捧(ささ)げ、人類史に不滅の足跡を残したのである。

平和の新世紀を

一、まもなく、カントの逝去(せいきょ)から、200年を迎える(2004年)。この年は、牧口先生の殉教(じゅんきょう)から60年の節目ともなる。

カントそして牧口先生の「人間の尊厳」 「永遠の平和」の理想は、21世紀にこそ、断じて実現しなければならない。 そのためにも、嫉妬や忘恩の悪徳の輩(やから)を踏(ふ)み越えて、私たちは、私たちの信ずる「創価の哲学の大道」を、堂々と歩み続けてまいりたい。

一、71年前の11月18日、牧口先生と戸田先生という、久遠(くおん)の絆(きずな)で結ばれた「不二の師弟」が、全人類のために立ち上がった。 この日は、わが創価学会が、末法万年尽未来際(じんみらいさい)へ、「世界広宣流布」という深遠(しんえん)なる使命のもとに出発した、創立記念の日となった。

そして、この日は、われらの偉大なる先師・牧口先生の命日でもある。

来る年も、来る年も、「正義の魂」が燃え、「勝利の旗」が、いやまして立ち並びゆく日が、11月の18日である。 創立の日は、日本中、世界中で、広宣流布の決意の同志が、総立ちしゆく日である。

2001年11月18日、我らは新世紀の幕開けを祝い、「希望の鐘(かね)」を乱打し、新たなる大前進を開始した。 尊い、大切な全同志の皆さま方が、絶対に、そして確実に、一人ももれなく「幸福」と「栄光」の人生の勝利者となられんことを心より祈り、私のスピーチとさせていただく。 どうか、風邪(かぜ)などひかれませんように!(大拍手) (2001・11・20文責=石黒忠之)

※カントについては、編集部でまとめる際、主に次の資料を参照した。

岩波書店『カント全集』。理想社『カント全集』。法政大学出版居『カントーその生涯と思想』

アルセ二イ・グリガ著、西牟田久雄・浜田義文訳。勁草書房『若きカントの思想形成』浜田義文著。

岩波文庫『ドイツ古典哲学の本質』ハイネ著、伊東勉訳。理想社『ロロロ伝記叢書 カント』U・シュルツ

著、坂部恵訳。清水書院『人と思想15 カント』小牧治著。弘文堂『カント事典』。