小説「新・人間革命」 陽光23 1月29日

 山本伸一は、相手が、市長であっても、庶民であっても、何も変わらなかった。

 一個の同じ人間として、相手の幸福と人生の勝利を願い、ただただ、誠心誠意、励ましを送った。そこに、真の人間交流の道が開かれるのだ。

 市長は、感無量の面持ちで言った。

 「会長の、この温かいお気持ちを、生涯、大切にしたいと思います」

 やがて、会見は終わった。初対面とは思えぬ、心と心が通い合う、深い語らいとなった。

  

 この日の夕刻、伸一はサンディエゴ会館の開所式に出席した。

 会館は全米総会の会場となるサンディエゴ・スポーツアリーナの近くにあり、ミッション湾から吹き抜ける風がさわやかであった。

 この建物は、何年か前までは教会であった。会館としてオープンするにあたり、有志が塗装作業などを引き受け、改装工事に勇んで汗を流した。

 “私たちの法城は私たちの手で!”

 それが、皆の心意気であった。

 会館には、黄、白、紫など、色とりどりのパンジーの鉢植えが並び、華やかな光を放っていた。

 その鉢植えには、小さな木片が付けられ、そこにメンバーの名前と、所属組織が書かれていた。

 メンバーは、真心の花をもって伸一の来館を歓迎し、会館を荘厳しようと、パンジーの種や苗を分け合い、それぞれが大切に育ててきたのだ。

 皆の願いは、開所式の日に、最も美しい“花盛り”の状態にすることであった。

 太陽の光に当てすぎれば、花は早く散ってしまう。しかし、当てなければ開かない。

 皆、細心の注意を払って花を育てた。

 その苦労が実り、すべての花が、美事に開いたのである。この日の朝に、花開いた鉢植えもあった。

 人のため、広宣流布のためにとの心で、誠実に努力したことは、福運となって自身を荘厳する。

 「誠実さと信念だけが人間を価値あるものにする」(注)とは、文豪ゲーテの卓見である。

 伸一は、皆に言った。

 「ありがとう。真心に涙が出ます。

 皆様方のご家庭も、幸福の花が爛漫と開くことを確信してください」



 引用文献 注 「ドイツ避難民閑談集」(『ゲーテ全集6』所収)石井不二雄訳、潮出版社