「SGIの日」記念提言(上)(下) 2007年1月26日 (5)

「SGIの日」記念提言(下) 1月27日



「生命の変革 地球平和への道標」

 「国際核軍縮機構」を創設し“核依存の安全保障”から脱却



 被爆国・日本こそリーダーシップを!



 続いて、修羅の生命にみられる“勝他”の精神が生み出す現代の諸問題を乗り越えるための具体的方策について、やや踏み込んで提案しておきたい。

 核関連技術の闇市場の実態が明らかになる中で、核テロに対する懸念が高まりをみせているのに加え、北朝鮮とイランの核開発問題が国際社会の焦点となっています。

 こうした中、IAEA国際原子力機関)のエルバラダイ事務局長は「新たな対策を取らなければ極めて短期間に20~30カ国が核兵器製造能力を手に入れてしまう」(昨年10月、ウィーンでの核問題に関するシンポジウム)と、潜在的な核保有国が増える可能性について警告を発しました。このまま歯止めがかからなければ、NPT(核拡散防止条約)の弱体化に拍車がかかり、核をめぐる混迷がさらに深まる恐れもあります。

 そこで私が提起したいのは、国際社会が共通の目標を見いだし、ともに責務を果たす体制を整えることです。

 とはいっても、まったく新しい枠組みが必要となるわけではありません。189カ国が加盟する世界で最も普遍的な軍備管理条約であるNPTをあくまでベースにしつつ、その定める義務を新たな概念に基づいて再構成していくことを呼びかけたいのです。

 NPTの前文には、「核戦争が全人類に惨害をもたらすものであり、したがって、このような戦争の危険を回避するためにあらゆる努力を払い、及び人民の安全を保障するための措置をとることが必要」と謳われています。

 この精神を踏まえ、核保有の有無にかかわらず、すべての国が等しく推進すべき課題として強調したいのは、「核兵器に依存しない安全保障」を確立し、化学兵器生物兵器の禁止条約と同じように、最終的には核兵器の禁止条約を成立させることです。

 新たな“共通の目標”に照らせば、保有国が取り組むべき核軍縮も、非保有国の協力が欠かせない核不拡散体制の強化も、「核兵器に依存しない安全保障」へ向けての“共通の責務”と位置付けることができましょう。



核問題を討議する「世界サミット」を

 

その意味で示唆深いのが、ハンス・ブリクス氏(IAEA前事務局長)が委員長を務める大量破壊兵器委員会(通称、ブリクス委員会)=注4=が、昨年6月に発表した「恐怖の兵器」と題する報告書です。そこでは、こう強調されています。

 「どこか一国が核兵器保有している限り、他の国家も保有したがるものだ。核兵器がある限り、意図的であるにせよ、偶発的であるにせよ、いつか使用される危険性がつきまとう。そして、いったん核兵器が使用されてしまったら、それは破滅を意味する」「大量破壊兵器委員会は、『ある国家の保有する核兵器は脅威ではないが、別の国家が保有すると世界にとって致命的な危険がある』という考え方を受け入れない」と。

 不信や恐怖に依拠した抑止論的思考を拒否する――との立場は、核兵器の使用を絶対悪と断じた戸田第2代会長の「原水爆禁止宣言」を貫く思想と相通じています。

 もちろん、北朝鮮やイランの核開発問題には個別的かつ早急に対処すべきことは当然だとしても、同様の問題が今後生じないようにするためには、国際社会全体の意識を変えていく必要がある。その意味から私は、「核兵器に依存しない安全保障」を地球的規模で実現するスタートラインとなる討議の場――たとえば「世界サミット」や「国連特別総会」を早期に開催すべきであると訴えたい。

 そこではまず、NPTの三つの柱である「核軍縮」「核不拡散」「原子力の平和利用」について、それぞれ国際的な枠組みを強化し、各国が“共通の責務”を果たすことを誓約する宣言を採択していく。その上で、宣言に則り、NPTの前文に謳われた「核兵器の製造を停止し、貯蔵されたすべての核兵器を廃棄し、並びに諸国の軍備から核兵器及びその運搬手段を除去する」という最終目標、すなわち“核兵器の廃絶と非合法化”に向けて、真剣な努力を重ねる転換点にすべきであると思います。

 続いて、「核兵器に依存しない安全保障」への移行を確実にするためのプランを、何点か提起しておきたい。

 一つ目は、核軍縮への明確な道筋をつけることです。

 現在、アメリカとロシアの間では双方の戦略核弾頭を2012年末までに1700から2200個程度にまで削減させる「モスクワ条約(戦略攻撃兵器削減条約)」が調印されていますが、廃棄までは義務付けられていません。

 そこで次なる段階として、両国が戦略核弾頭を数百個程度にまで削減し、完全廃棄へ向かう新たな条約を締結し、核軍縮の流れを先導するよう、私は強く訴えたい。

 その上で、核軍縮の履行を定めたNPT第6条に従い、すべての保有国を対象にした「核軍縮条約」の成立を目指すべきだと思います。

 すでに米ロの間では昨年9月から、2009年末に「START1(第1次戦略兵器削減条約)」が失効した後の査察検証問題についての議論が始まっています。

 またイギリスでは、核兵器システムが2020年代半ばに寿命を迎えることを踏まえ、その更新問題が昨年焦点となりましたが、他の保有国を含めて、核兵器の更新や新規開発の方向に進むのではなく、軍縮へと積極的に踏み出すべきだと思うのです。

 加えて、「核軍縮条約」の交渉を調整し、発効後は履行の確保に努める機関として、査察機能を有する「国際核軍縮機構」を国連に創設することを提案しておきたい。

 その土台づくりとなる取り組みは、核軍縮を求める国々とNGO(非政府組織)の間で2年前からスタートしています。「第6条フォーラム」=注5=と呼ばれるもので、NPT第6条の核軍縮義務の履行を図るための交渉について議論し、核兵器のない世界に要求される法的、政治的、技術的要素を検討することが目指されています。



「世界の民衆の行動の10年」の制定を!

 

こうした動きを後押ししていく意味でも、私は昨年の国連提言で提唱した、「核廃絶へ向けての世界の民衆の行動の10年」の制定を重ねて呼びかけたい。とくに、広島、長崎への原爆投下という惨劇を味わった唯一の被爆国である日本は、核軍縮、そして核廃絶を求める国際社会の先頭に立って、同10年の制定を強く呼びかけ、時代の流れを変えるリーダーシップを発揮してほしいと念じるものです。

 この点、先のブリクス委員会の報告書でも、「大量破壊兵器は、政府や国際機関だけの課題ではない。研究者、NGO、市民社会、企業、メディア、そして一般の人々も主体者として取り組むべき課題」であるとし、「その解決のための貢献は、すべての人々に求められている」と強調しております。

 私は、その主役こそ「青年」であると思います。

 SGI(創価学会インタナショナル)としても、国連諸機関や他のNGOと連携しながら「軍縮教育」を推進するとともに、青年の熱と力で“核廃絶を求める民衆のネットワーク”をさらに大きく、力強く広げていきたい。

 また、私の創立した戸田記念国際平和研究所では、戸田第2代会長の「原水爆禁止宣言」50周年を記念して、今年9月にサンフランシスコで「核廃絶への挑戦」をテーマにした国際会議を開催する予定となっています。会議の成果を報告書にまとめ、国連や各国政府などに配布し、「核兵器に依存しない安全保障」への議論を喚起していきたいと念願するものです。