「SGIの日」記念提言(上)(下) 2007年 1月26日 (6)

「宇宙の非軍事化」へ規制を強化

 

第2に言及したいのは、核不拡散体制を強化するための方策です。

 そのためにはまず、CTBT(包括的核実験禁止条約)の早期発効が望まれます。

 残念ながら96年に採択されたCTBTは、アメリカなどの発効要件国の批准が得られないため、10年以上にわたり未発効のままです。このため、CTBTの現実性を悲観する声もありますが、一方でCTBTの精神がある種の抑止力となって、核実験の自粛を実現させてきた面も否めません。

 事実、安保理常任理事国の5核保有国すべてが核爆発実験のモラトリアム(一時停止)を宣言しているのに加え、インドとパキスタンも同様の宣言を発表しています。その結果、98年以降、昨年10月に北朝鮮が実施するまでの8年間、核爆発実験は一度も行われなかったのです。

 仮に発効が当面難しいとしても、批准国が一定数に達した段階で暫定発効の形をとるなど、CTBTの本格稼働への道を模索することが大切ではないでしょうか。

 法制度の面からもう一つ提起したいのは、NPTの柱である「原子力の平和利用」を核兵器開発へ転用させない枠組みの強化です。

 昨年9月、IAEAの年次総会に合わせてウィーンで特別会合が開かれ、原発用の核燃料供給を保証するための多国間協力のあり方が討議されました。IAEAでは今後、制度の青写真作りに着手し、理事会での採択を目指すことになっていますが、各国が利害を超えて、“核開発能力の拡散防止”のために最も効果的な制度の確立に向け、合意できるよう強く念願するものです。



国連の支援を通じ「非核地帯」を拡大



 またこれと併せて、サミット(主要国首脳会議)などの場を通じて、保有国による「核兵器の先制不使用」と、非保有国への核兵器の使用や威嚇を行わない「消極的安全保障」の制度化について討議することを強く求めたい。

 核保有を望む国をこれ以上出さないためには、核の保有を望む発想や国際環境を変えることが重要であり、とくに「消極的安全保障」の制度化は、非核地帯の実効性を確保する上でも大きな意味を持っているからです。

 昨年9月、カザフスタンタジキスタンキルギスウズベキスタントルクメニスタンの5カ国が「中央アジア非核地帯条約」に調印しました。域内での核兵器の開発や生産や所持などを禁じるもので、南極条約を含め中南米、南太平洋、東南アジア、アフリカに続く、世界で6番目の非核地帯条約となるものです。

 注目すべきは、条約が国連による支援を得て成立したことです。この実績を踏まえ、今後、当事国だけでは難航しがちな条約交渉を、国連が他の地域においてもサポートしていくことが望まれます。

 何より大切なのは、核保有を“外交カード”にするような風潮を許さない国際社会の意思を明確にしながら、「核兵器に依存しない安全保障」のあり方をともに模索し、構築していく努力であります。

 いったん核開発を進めたり、核兵器保有した国であっても、その状況が必ずしも半永久的に固定化するわけではないことは、これまでの歴史が証明しています。

 実際、カナダのように「マンハッタン計画」に参加しながらあえて非核の道を選んだ国もあれば、ブラジルやアルゼンチンのように核開発計画を取りやめたり、南アフリカのように核兵器を廃棄した上で非保有国の仲間入りをした国もあります。

 また、旧ソ連の崩壊で一時的に核兵器を継承しながら、アメリカとロシアを含む関係国による安全の保証と経済支援を得て、最終的に核放棄にいたったウクライナの例は、北朝鮮の核開発問題に臨む上でのモデルケースともなるといわれています。

 いずれにせよ私は、懸案となっている北朝鮮とイランの核開発問題を根本的に解決するには、対話を通じた地域全体の非核化、つまり、最終的には「北東アジアの非核化」と「中東の非核化」を実現する以外に道はないと思います。そうでなければ、いったんは核兵器開発を放棄したとしても、国際環境の変化や政策の転換で核開発が再開されてしまう危険性をなくすことはできないからです。



平和の21世紀へ、人間のための安全保障を!――国際原子力機関エルバラダイ事務局長と、「核兵器のない世界」への道筋を展望(昨年11月、東京・信濃町の本社で)



2005年4月、メキシコ市で行われた「非核地帯会議」。中南米、南太平洋、東南アジア、アフリカの4地域の非核地帯条約の加盟国をはじめ約90カ国の政府代表が集った会議には、SGIの代表も参加した



190カ国・地域に広がるSGIの平和運動の原点は牧口・戸田両会長の“師弟の闘争”に



 宇宙の平和利用についての原則を定めたものに「宇宙条約」があります。

 しかし同条約では、月など天体の軍事利用は一切禁止されているものの、その他の宇宙空間における制限は明確化されておらず、軍事技術の発展を見据えた規制範囲の拡大と強化を望む声が年々高まっています。

 今年は「宇宙条約」発効40周年でもあり、見直しを含めた議論を本格的に開始する絶好の機会といえましょう。

 先のブリクス委員会の報告書でも検討すべき課題として、宇宙における兵器の配備の禁止や、宇宙条約の普遍的遵守、同条約のスコープ(適用範囲)の拡大、宇宙兵器の実験禁止などのテーマを取り上げています。

 そこで私は、国連事務総長が主導する形で、「宇宙の非軍事化に関する賢人会議」を発足させ、具体的な対策を取りまとめながら、この問題に対する国際世論の喚起に努めていってはどうかと提案したいと思います。

 最後に軍縮に関わる問題として触れておきたいのは、各地の紛争や内戦で実際に使用され、多くの人命を奪い、“事実上の大量破壊兵器”ともいうべき存在となっている通常兵器の国際移転の規制についてです。

 今、世界には約6億4000万もの小型武器と軽兵器が存在し、毎日800万個以上の武器が製造されているといわれます。これらの武器の拡散が、各地で人権侵害や紛争の激化を助長しており、一日あたり1000人以上の人々が命を落としているのです。

 この規制を呼びかける「コントロール・アームズ」=注6=のキャンペーンが、NGOの呼びかけで2003年10月に始まり、各国政府の支持を広げる中、ついに先月の国連総会で、「武器貿易条約」の形成に向けての議論を開始するための決議が採択されました。「武器貿易条約」は、武器の不正使用につながるような国際移転を禁止するもので、小型武器だけでなく重兵器も含めた通常兵器全般の移転を規制することを目的にしたものです。

 決議の結果、(1)国連事務総長が「武器貿易条約」に関する各国の見解を求め、今年中に国連総会に報告書を提出する、(2)そして2008年に、政府間の専門家グループを設置し、さらに議論を深めて総会に詳細な報告書を提出する、という2段階のプロセスを経て条約制定を目指すことが決まりました。

 私も13年前から「不戦の制度化」の一環として武器輸出を規制する国際的な枠組みの強化を繰り返し訴えてきたところであり、その早期締結を強く望むものです。

 同条約が成立すれば、「対人地雷全面禁止条約」に続き、NGOが主導的役割を果たした軍縮条約が実現することになります。軍縮に関する他の分野での交渉の進展にも、必ずや大きな影響を及ぼすに違いありません。