『SGIの日」記念提言 (8)

アジアの永続的な平和を目指し

日中友好構築の10年」の実施を

 翌月(75年1月)にはアメリカに向かい、小雪が舞うワシントンで国務長官キッシンジャー氏との会見に臨みました。席上、周総理が日中平和友好条約の締結を望んでいることを伝えると、「賛成です。やったほうがいい」と述べられました。

 同じ日、ワシントンでお会いした大平正芳元首相(当時、大蔵大臣)に、キッシンジャー氏の言葉を伝え、条約締結の必要性を訴えると、大平氏は「友好条約は、必ずやります」と答えられました。その3年後(78年8月)、日中平和友好条約は締結されたのであります。

 また第3次訪中の折(75年4月)には、北京でトウ小平副総理と会見するとともに、亡命中のシアヌーク殿下とお会いし、カンボジアの和平をめぐって語り合いました。

 SGIは、私自身のこうした対話を通じた平和建設の挑戦のまっただ中で、75年1月26日、第2次世界大戦の激戦地であったグアムで発足しました。51カ国・地域の代表が集い、“民衆による一大平和勢力”の構築を目指して出発したその日以来、民衆の連帯は今や190カ国・地域まで広がっております。

 このSGI発足に相前後する形で、私は教育交流、とくに次代のリーダーを育成する大学間の交流の推進に力を注ぎ始めました。各国訪問の際、時間の許す限り、大学などの教育機関に足を運び、意見交換を行ったり、生徒や学生と懇談のひとときを過ごしながら、教育交流の道を開いてきたのであります。

 それは、牧口・戸田両会長の構想を受け継ぎ、68年に創価学園を、71年には創価大学を開学し、世界の教育者と手を携え、平和のための学府をつくりあげたいとの、創立者としての一念に基づくものでもありました。

 初訪中を直前に控えた74年4月、アメリカのUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で初の大学講演を行ったのに続き、翌75年5月にはモスクワ大学で「東西文化交流の新しい道」をテーマに講演しました。

 「民族、体制、イデオロギーの壁を超えて、文化の全領域にわたる民衆という底流からの交わり、つまり人間と人間との心をつなぐ『精神のシルクロード』が、今ほど要請されている時代はない」

 そこで述べた言葉は今も変わることなく、私の平和行動の信念となっています。

 その際、モスクワ大学から授与された名誉博士号以来、今日まで、世界の大学・学術機関から授与された名誉学術称号は202を数えるまでにいたりました。

 このことは私自身というよりも、SGI総体への栄誉であり、各国の英知の殿堂である大学が、平和と人間主義を希求する心で一つに結ぶことができることの証左でもあります。僭越ではありますが、私が開いたこの道が、モスクワ大学で呼びかけた、人間と人間との心をつなぐ「精神のシルクロード」を形成する一助となればと願うものです。

 各国首脳と信頼深める対話に全力

 そして80年代からは、各国のリーダーや識者との対話にさらに全力で臨んできました。

 とくにアジアの永続的な平和の構築を目指して、中国の江沢民主席や胡錦濤主席、韓国の李寿成元首相や申鉉ファク元首相をはじめ、フィリピン(アキノ大統領、ラモス大統領)、インドネシア(ワヒド前大統領)、マレーシア(アズラン・シャー国王、マハティール首相)、シンガポール(ナザン大統領、リー・クアンユー首相)など、戦前に日本が軍国主義の爪跡を残し、現在も複雑な対日感情を抱えている国々の首脳と、真摯に過去の歴史を見つめ、希望の未来を展望する語らいを続けてきました。

 そして、タイ(プーミポン国王、アナン元首相)、モンゴル(バガバンディ大統領、エンフバヤル大統領)、ネパール(ビレンドラ国王)、インド(ナラヤナン大統領、ベンカタラマン大統領、ラジブ・ガンジー首相、グジュラール首相)など、他のアジア諸国のリーダーの方々との対話を通し、信頼と友誼を深めてきたのであります。

 加えて、83年にスタートした毎年の「SGIの日」記念提言を通し、国連強化や地球的問題群の解決のための提案を行ってきました。その中で、とくにアジア太平洋地域の平和に焦点を当てた提案を重ねてきました。

 このうち、韓・朝鮮半島の平和と安定を願いつつ行った「南北首脳会談の早期開催」「韓国と北朝鮮の相互不可侵・不戦の誓約の合意」「北朝鮮の核開発問題を解決するための多国間会議の開催」の諸提案は、多くの課題を抱えながらも時代の進展の中で実現をみてきました。

 また近年では、「アジアにおける共通の歴史認識の土台をつくる共同研究の推進」や、「国交正常化時の精神に立ち返り、日中関係の改善を図ること」を提言の中で呼びかけつつ、アジア各国の首脳や識者との対話を通じて、その実現に向けての環境を整える努力を重ねてきたのであります。

 なかでも昨年10月、日中首脳会談に続き、日韓首脳会談が行われ、ここ数年、政治的な緊張状態が続いていた日中関係と日韓関係が改善へ向けて動き始めたのは、誠に喜ばしいことでありました。

 加えて、このほど、アジアから二人目となる国連事務総長として、韓国の潘基文氏(前外交通商相)が新たに就任されました。

 ご活躍を心からお祈りするとともに、潘事務総長のリーダーシップのもと、国連を中心とした世界平和の建設が力強く前進することを念願するものであります。

 また本年は、日本と韓国にとって意義深い「朝鮮通信使400周年」に当たります。このほど両国は、それぞれの都市間で青少年を相互派遣し交流拡大を図る「日韓相互通信使」事業(仮称)を展開することで合意しました。現在、日中間で実施されている青少年交流とともに、日中韓の若い世代の友情が深まることを期待するものです。

 さて、日中首脳会談で合意された「日中共同プレス発表」は、実に8年ぶりの共同文書で、今後の両国関係の原則となる重要な項目が盛り込まれましたが、とくに私が着目したのは次の一文でした。

 「アジア及び世界の平和、安定及び発展に対して共に建設的な貢献を行うことが、新たな時代において両国及び両国関係に与えられた厳粛な責任であるとの認識で一致した」

 なぜならこの精神こそ、私が30年以上も前(74年12月)、周恩来総理とお会いした折に、深く一致した日中の未来ビジョンにほかならなかったからです。

 今年は「日中国交正常化」35周年の佳節でもあり、この流れを後戻りさせることなく、各分野での協力と交流を着実に進め、東アジアにおける平和と共存の要となる盤石な信頼関係を築くべき段階を迎えております。

 そこで私は、北京オリンピックが開催される明2008年から10年間を「21世紀の日中友好構築の10年」として、1年ごとに重点テーマを定め、両国のさらなる関係強化を図っていくことを提案したいと思います。

 「外交官交流プログラム」の拡大を

 先の共同プレス発表には、2007年の取り組みとして「日中文化・スポーツ交流年を通じ、両国民、特に青少年の交流を飛躍的に展開し、両国民の間の友好的な感情を増進する」との項目に加えて、「エネルギー、環境保護、金融、情報通信技術、知的財産権保護等の分野を重点として、互恵協力を強化する」と謳われています。

 そこで「日中文化・スポーツ交流年」に続く形で、たとえば「日中エネルギー協力年」、「日中環境保護協力年」というように、毎年、各分野における協力を広げていってはどうでしょうか。

 また友好構築の10年での取り組みとして、「日中外交官交流プログラム」を実施することを検討してみてはどうかと思います。

 ヨーロッパでは戦後、フランスとドイツが2度にわたる世界大戦の恩讐を超えて、EU(欧州連合)の統合プロセスを進める原動力となってきました。

 両国には外交官を相手国の外務省に相互派遣する制度が定着しており、不要な疑心暗鬼を取り除くなど、外交関係の緊密化に効果を発揮してきたといわれています。

 日本でもこれまで、アメリカやフランスやドイツなどとの外交官交流プログラムが実施されてきました。今後は、中国や韓国などアジア諸国とも相互交流の輪を広げながら、「東アジア共同体」構築への環境づくりを整えていくべきではないでしょうか。

 次に、中国と並ぶ21世紀の躍進国であるインドについて、一言触れておきたい。

 昨年7月、ロシアで行われたサミットの最終日に、新興5カ国(中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ)を加える形での拡大会合が行われました。

 そこで改めて、G8(主要8カ国)首脳が取りまとめたエネルギー安全保障など三つの特別文書の内容について、新興国の首脳に報告し、その意見を聞く機会が設けられたように、こうした新興国の声を踏まえることなく、サミットの方向性を打ち出すことが難しい時代に入りつつあるといえます。

 このうちインドと日本の関係についても先月、大きな進展がみられました。インドのシン首相が来日し、首脳会談が行われ、「日印戦略的グローバル・パートナーシップ」に向けた共同声明が発表されたのです。

 私は、この動きを歓迎するとともに、日印文化協定締結50周年を記念する今年の「日印交流年」の大成功を念願するものです。

 そして、適切な時期を選んで、アメリ創価大学が中心となり、日本、アメリカ、中国、インドの4カ国の学識者を招き、「21世紀におけるグローバル・パートナーシップの深化と拡大」をテーマに国際会議等を開いてはどうかと提案しておきたい。

 アメリ創価大学に所属する「環太平洋平和文化研究センター」には、設立以来、アジア太平洋地域の平和的発展のための政策研究を活動の柱としてきた実績もあり、これまでの研究の蓄積を生かしつつ、有意義な議論が行われることを期待するものです。