小説「新・人間革命」 宝塔8 3月14日

 家族がいなくなるのを見計らって、盛山光洋は実家で題目を唱えた。

 さんざん信心に反発してきただけに、御本尊に手を合わせる姿を、見られたくなかったのだ。

 盛山は、唱題を重ねるうちに、勇気と力がわいてくるのを覚えた。不思議であった。

 夏休みが終わり、石垣島に戻った盛山は、皆に積極的に声をかけるようになった。

 すると、ほかの島から来ている生徒も、自分と同じように、環境になじめずにいることがわかった。友人もできた。

 率直な一言が心の扉を開く。勇気をもって対話するなかで、人間の絆は深まる。

 石垣島では、座談会など、学会の活動にも参加した。

 しかし、高校三年になり、受験勉強を始めるようになると組織から遠ざかり、信心もおろそかになっていった。

 大学は琉球大学を受験したが、失敗した。やむなく、小浜島の製糖工場に就職した。二カ月ほどしたころから、彼は不安にさいなまれ始めた。

 “俺の人生は、このまま終わってしまうのか。もっとほかに、やるべきことがある気がする”

 無性に大学に行きたいという思いが込み上げてきた。母親に相談した。

 「いいよ。お金のことなら心配しなくて……」

 母は、そう言ってくれた。盛山は会社を辞め、那覇に出て、予備校生活を始めた。

 この年の暮れ、従兄が訪ねてきた。

 「お母さんは、那覇に送り出した君が信心していないことを、心配しているよ」

 その言葉が、胸に突き刺さった。

 苦労させ通しで、貧しいなか仕送りまでしてくれている母に、心配をかけていることが申し訳なかった。せめてもの親孝行にとの思いで、再び勤行を始めた。

 聖教新聞も購読し、学生部という組織があることも知った。

 母は、必死に祈っていたのだ。子を思う母の祈りが通じぬわけがない。母の祈りには、海よりも深い慈愛がある。

 盛山は、誓いを立てながら唱題に励んだ。

 “自分に大学に行く使命があるなら、合格させてください。合格したならば、必ず、人材に成長し、一生涯、学会を守り抜きます!”