小説「新・人間革命」 3月23日 宝塔16

青年部反戦出版の第一号となる、『打ち砕かれしうるま島』は、完成すると、直ちに山本伸一のもとに届けられた。

 伸一は、その刷り上がったばかりの数冊の本を仏前に供えて唱題し、青年たちの健勝と、沖縄の平和を深く祈った。

 それから、ゆっくりとページを開き、丹念に目を通していった。

 彼は、峯子に語った。

 「どれも涙なくしては読めない体験ばかりだ。沖縄の青年部は、よく頑張ったな。歴史に残る仕事をしたよ」

 そして、本の扉に、一文を認めていった。

 「創価学会は  平和反戦の  集団なり  此の書 その証なり」

 さらに、次の一冊には、こう記した。

 「平和の点火 いま ここに燃ゆ 君よ この松明を 生涯にわたって 持ち進め 走れ」

 最初の本は、全国の反戦出版を推進している男子部長の野村勇に、次の本は沖縄県反戦出版の委員長を務めた盛山光洋に贈った。

 伸一は、この年の二月に沖縄を訪問した折、盛山が高見福安に伴われて、反戦出版の報告にきたことが思い出された。

 盛山は、黒い大きな目を輝かせながら言った。

 「先生は、この沖縄の地で、小説『人間革命』を起稿し、『戦争ほど、残酷なものはない。戦争ほど、悲惨なものはない……』との言葉を、残してくださいました。

 その思想を、沖縄中、日本中、世界中に伝え、平和建設の波を起こしていくために、沖縄青年部は立ち上がりました。

 その証が、今、取り組んでいる反戦出版です。四十人以上の方々の、戦争体験が収録されることになります。

 六月の発刊をめざし、作業は最終段階に入りつつあります」

 伸一は答えた。

 「それはすごいな。

 日蓮大聖人は、立正安国を掲げ、広宣流布の戦いを起こされた。

 正法、すなわち正しい思想・哲学を人びとの胸中に打ち立てて、社会の平和と繁栄を築き上げることが立正安国です。

 社会の建設というテーマを明らかにした、この立正安国という主張こそ、人間のための宗教の在り方を示すものだ」