小説「新・人間革命」 3月24日 宝塔17

現実社会の問題に目を向けず、改革の力となりえない宗教は、死せる宗教である。

 山本伸一は、彼方を見すえるような目で、力強く語った。

 「平和ということは、人類の未来を考えるうえで、最も大切な問題だ。

 しかも世界は、米ソの対立だけでなく、中ソの対立も、ますます深刻化しつつある。

 だから私も、今年は仏法者として、世界の平和のために、いよいよ本格的に行動を開始します。

 世界の識者の、私たちへの期待は大きい」

 この四年前に伸一が対談したヨーロッパ統合の父クーデンホーフ・カレルギーも、こう述べている。

 「新しい宗教波動だけが、この(第三次世界大戦の)趨勢を止め、人類を救うことができる。創価学会は、それ故に、偉大なる希望である」(注)

 それから伸一は、盛山光洋に、じっと視線を注いで言った。

「私の平和への行動に呼応するかのように、沖縄の君たちが、反戦出版をもって平和の潮流を起こそうとしてくれていることが、私は何よりも嬉しいんだよ」

 盛山は、微笑みながら答えた。

 「私たちは、この時を待っておりました。戦争体験の風化を、なんとしても、くい止めたいと考えていました。

 それで、先生が、一年三カ月前の第三十五回本部総会で、生存の権利を守る運動を青年部に託された時、沖縄の青年部では、すぐに反戦出版ということを考えました」

 「そうか。その心意気が尊いね。

 ひとたび進むべき方向が決まったならば、皆が呼吸を合わせて、積極果敢に行動することだ。言われたから仕方なくやるというのでは力も出ないし、つまらないからね。

 受け身になるのではなく、自ら勇んで戦いを起こし、広宣流布に生き抜くことが大事だよ。

 大聖人も『我が弟子等・大願ををこせ』(御書一五六一ページ)と仰せじゃないか。それが、使命に生きるということだ。

 そして、その時、人間は最も主体性にあふれ、生き生きとし、いちばん大きな力を発揮することができる。

 そうなれば、どんなに大変なことがあっても、決して苦にはならないものだよ」



引用文献: 注 齋藤康一著『写真 池田大作を追う』(所収のクーデンホーフ・カレルギーの言葉)講談社