小説「新・人間革命」 宝塔18 3月26日

山本伸一は、しみじみとした口調で、なおも話を続けた。

 「沖縄は、本土に復帰し、新時代を迎えた。

 沖縄の歴史は、あまりにも悲惨だった。だからこそ、仏法という生命の大哲理をもって、最も平和で幸福な島にしなければならない。そうなることで、仏法の真実を証明するのだ。

 それが沖縄の使命なんです。『宿命』を『使命』に転ずるのが妙法の一念です」

 それから伸一は、盛山光洋に尋ねた。

 「君の出身は、沖縄のどこだったかな」

 「生まれたのは竹富島です。それから西表島に移りました」

 「竹富島は、珊瑚や星砂で有名なところだね」

 「はい。私は小学生の時に父を亡くし、家は大変に貧乏でした。高校は石垣島ですが、口下手で人前で話をするのが苦手でした」

 「そうか……。

 お父さんもいない。家も貧しい。人前で話もできない――だからこそ盛山君には、沖縄の民衆の大リーダーになる使命がある。その資格があるんだよ」

 盛山は、戸惑った顔で、伸一を見た。

 伸一は、微笑を浮かべて語り始めた。

 「だって、そうじゃないか。そういう体験をしてきた君だからこそ、父親を亡くした人の苦しみがわかる。貧乏であることの辛さも身に染みてわかる。口下手である人の気持ちを察することもできる。

 それは全部、民衆のリーダーたる者の大事な要件なんだよ。

 そして、その君が、大リーダーに育てば、みんなの希望となる。

 父親がいないから、貧しいから、話すのが苦手だからといって、自信をなくしていた人たちが、みんな、勇気をもてるようになるじゃないか。

 その実証を示せば、仏法の正しさが証明され、広宣流布の大きな力となる。したがって、自分のもって生まれた宿命は、そのまま使命になる。

 人生には、意味のないことなど一切ないし、すべてが生かされるのが信心なんだよ。だから『妙とは蘇生の義なり』(御書九四七ページ)なんだ。

 頑張って、沖縄の大リーダーに育つんだよ」

 「はい!」

 盛山は、決意に燃えて答えた。