小説「新・人間革命」  友誼の道40 6月18日

 万里の長城の上は、幅四、五メートルほどの歩道になっていた。

 かなり急勾配のところもあった。山本伸一が上るのに難儀していると、同行してくれている中日友好協会の青年が、後ろから支えるようにして伸一を押してくれた。

 「ありがとう。でも、『自力更生』で行きますから」

 「自力更生」は中国の行動指針である。伸一の言葉に、金蘇城理事の笑みがこぼれた。

 しばらく上ると、眺望が開け、彼方に永定河(ヨンチンホー)の流れが光っていた。

 晴れ渡った空の下、どこまでも続く長城は、鮮やかな緑の中をうねる巨大な龍を思わせた。

 伸一は、金理事と談笑した。

 「私は小さい時から、ここに立つことが夢でした。今日は歴史的な日になりました。

 私の師匠である戸田城聖先生は、生前、よく私に、いつか二人で中国に行き、万里の長城に立ってみたいなと言われました。

 今日は、先生と一緒に立っている心境です。

 戸田先生は、『人材の城をもって、民衆の幸福を築くのだ』と、よく話されておりました。

 国家といっても、団体といっても、結局は人間によって決まります。

 信念の人、英知の人、勇気の人、誠実の人など、どれだけ人材を育て、そして団結していくかによって、すべてが決定づけられてしまいます。

 だから、私は二十一世紀のために、教育に全精魂を注いでいます」

 詩人タゴールは叫ぶ。

 「国は人間が創造したものです。国は土からできているのではなく、人々の心でできています。もし人間が輝いていれば、国は顕現されます」(注)

 その人間を輝かせるのが、学会の運動である。

 金理事は、伸一の話に頷きながら言った。

 「私も、山本先生の意見に賛同いたします。人間の力こそすべてです。そして、人間が力を出すには勇気が必要です。

 『奴隷になりたくないものは立ち上がれ、人民は哲学思想の長城たれ』というのが、私たちの指針です。

 勇気をもって立ち上がり、確固とした哲学をもつ、人民の“心の長城”が一番強いと思います。精神の長城は無敵です」



引用文献: 注 「自伝的エッセイ」(『タゴール著作集10』所収)我妻和男訳、第三文明社