小説「新・人間革命」  9月22日 懸け橋46

レニングラードに別れを告げる時は、刻々と近づきつつあった。伸一たちは、この日の夜行列車で、モスクワに戻ることになっていたのである。

 午後七時から、伸一の一行が宿泊したホテルで、対文連レニングラード支部主催の夕食会が行われた。

 冒頭、対文連のC・P・トフカネン副支部長があいさつに立った。

 「山本会長の一行を、わがレニングラードにお迎えできたことは、大きな喜びです。

 両国人民は友情と平和を強く求めております。その意味では、皆、“同じ仲間”であります。

 今後の会長の活躍が大きな成果を収めますように、また、両国間の友情のために、乾杯をしたいと思います」

 皆がグラスを掲げて唱和した。和やかな友情の語らいが広がった。

 伸一は強く思った。

 “私の会ったソ連の誰もが、平和を渇望し、国境を超えて友情を結び合うことを希望している。

 ならば、その人びとの思いを、熱願を、実現させるのだ! それが、わが人生の戦いだ”

 彼は、関係者への感謝と両国の友好の大道を開く誓いをこめて、こうあいさつした。

 「創価学会は、日本の民衆の手で自発的につくられた団体であります。

 今回の訪問によって、日ソの民衆交流の道は開かれました。今後はさらに、平和を志向する両国民の友好の進展に、全力を注いでまいります。

 私は、この訪問で、レニングラード市民の、戦争への強い強い怒りの心を知りました。平和を願望する熱い熱い心を知りました。世界の友人たちに開かれた、広い広い心を知りました。

 私の人生で、大きな収穫となる訪問でした。

 世界有数の文化都市レニングラードが、民衆の幸せにつながる平和と革命の都として、ますます繁栄することを、心よりお祈り申し上げます」

 戦争の悲惨さを知る人びとには、平和を叫び抜く使命がある。

 トルストイは訴えた。

 「人間は、使命を果たすべく、この世に生まれてきたのである。後回しにすることなく、そのことに一瞬一瞬、全力を注いでいくべきである。

 それのみが、真の幸福である」(注)

  会食が終了したのは、午後九時半であった。



引用文献: 注 『トルストイ全集45』TERRA出版(ロシア語版)