小説「新・人間革命」 信義の絆19  11月20日

山本伸一全人代全国人民代表大会の略称)の開催時期についても、単刀直入に、トウ小平副総理に尋ねた。

 全人代は、日本の国会にあたり、中国の国家権力の最高機関である。

 かつては、毎年、開催されてきたが、文化大革命期に入ってからは、一九六四年(昭和三十九年)十二月下旬から翌年の一月初めにかけて行われたのを最後に、開催されていなかった。

 伸一は、こんな事態が続くことで、中国が国家として信頼をなくしてしまうことを、深く憂慮していたのだ。

 トウ副総理は答えた。

 「全人代の開催は、もう近いと思います」

 全人代の開催を表明すれば、世界各国は、中国がルールに則った国家の運営をしようとしていることを認識し、安心するはずである。ゆえに伸一は、あえて全人代の開催を尋ねたのである。

 彼は、どうすれば中国が、世界の理解、信頼を勝ち得るか、真剣に考えていたのだ。

 伸一は、この会談終了後の記者会見で、全人代開催についての副総理の回答を伝えた。

 各紙は翌十二月六日付で、「準備完了した人民代表大会」(朝日新聞)などの見出しを掲げ、一斉に全人代の開催が近いことを報じたのである。

 真の友好とは、親身になって相手のことを思う、誠意と信念の結実にほかならない。

 さらに伸一はトウ副総理との会談で、日本と中国が共同で、シルクロードの発掘や研究にあたることなども提案した。

 それを推進することで、日中の深い結びつきが再確認され、学術交流も図られていくからだ。

 彼は日中の友好が深まっていくことを願い、そのための具体的な案を、忌憚なくトウ副総理にぶつけたのである。

 伸一の中国への思いは、副総理の胸に、強く響いたにちがいない。一時間近い会見の最後に、副総理は言った。

 「これからは、山本会長のご都合のよい時に、いつでも中国を訪問してください。私たちは、いつでも友人として大歓迎いたします」

 ――「わたしの理想は、たくさんの人間の役に立つ友人となることだ」(注)とは、スイスの哲学者ヒルティの言葉である。それは、伸一の強い思いでもあった。



引用文献:  注 シュトゥッキ著『ヒルティ伝』国松孝二・伊藤利男訳、白水社