小説「新・人間革命」信義の絆20  11月21日

 トウ小平副総理との会談を終えた山本伸一たちは天壇公園を視察した。

 ここは、かつては皇帝が、宇宙を主宰する神である天帝をまつる儀式を行ったところである。それを開放し、公園としたのである。

 伸一は、公園に来ている人たちに親しく声をかけ、小さな子どもとも、すぐに親しくなった。幼い魂にも、友誼の橋を架けたかったのである。

 「圜丘」と呼ばれる石造りの円形の高台では、居合わせた四十人ほどの人びとと、共に記念撮影をした。少しでも時間があるなら、民衆と触れ合いたいというのが伸一の思いであった。

 真実の思想も、知恵も、正義も、民衆のなかにある。民衆の英知こそが未来を開く力となる。民衆の連帯こそが、平和を築く砦となる――それが、伸一の確信であった。

   

 滞在最後の夜となる五日午後七時前から、北京市内の国際クラブで、山本伸一・峯子による答礼宴が行われた。

 中日友好協会や北京大学の関係者、報道関係者、また、滞在中にお世話になった北京飯店の従業員らも招いての会食であった。

 あいさつに立った伸一は、今回の訪問は創価大学北京大学の末永い交流を推進するための、源流ともいうべき日々であったことを語り、関係者に深く感謝した。

 さらに、日中間には航空機の相互乗り入れも実現し、両国の時間的距離は驚くほど短縮したとの実感を述べ、次のように訴えた。

 「今度は心の距離を短くしていく時であると思います。

 物理的な距離よりも、はるかに大切なことは、民衆と民衆の間の心の距離を縮める――すなわち誠意にあふれ、信義をどこまでも貫いていくという精神に基づく友好の気持ちを、互いに高めていくことであります。

 いくら物理的に近くても、お互いを尊敬し合っていく心、平等互恵の気持ちがなければ、平和と友情の架橋作業は幻影でありましょう」

 そして、今後の日中友好の課題は、民衆の心と心の間に、永遠の友好の金の橋を、幾重にも堅固に築き上げていくことであり、長期的展望に立っての、教育・文化の交流を推進していくことであると強調した。