小説「新・人間革命」  11月24日 信義の絆23

周恩来総理は、にこやかに語りかけた。

 「まず、みんなで記念撮影をしましょう」

 そして総理は、同行のメンバー全員に声をかけながら、握手をした。

 総理との記念撮影とあって、皆、緊張した顔でカメラに納まった。

 撮影が終わると、総理は山本伸一に言った。

 「どうぞ、こちらへ」

 事前の打ち合わせ通り、伸一と峯子だけが会見の部屋に入った。

 席に着くと、周総理は、伸一たちに静かな口調で語った。

 「山本先生は、二度目の訪中ですね。前回、来られた時は、私の体調が最も悪い時期で、お会いすることができませんでした。

 しかし、少しずつ、病状も快方に向かっておりますので、どうしてもお会いしたいと思っておりました。今回はお会いできて、本当に嬉しい」

 周総理は七十六歳、伸一は四十六歳である。

 総理は、伸一の若さの可能性にかけていたのかもしれない。

 「偉大なことをなしとげるには、若くなくてはいけない」(注)とはゲーテ箴言である。

 新しき力が未来をつくる。ゆえに、全精魂を注いで、若い世代を大切に育てるのだ。

 会見の通訳をしてくれたのは、中日友好協会の林麗ウン理事であった。

 峯子は、総理と伸一のやりとりを、懸命にノートに書き留め始めた。

 彼女は、これは重要な歴史的な会見になるにちがいないと思った。しかし、会見会場に記者は入っていなかった。

 峯子は、責任の重大さを感じながら、必死になってペンを走らせた。

 周総理は、中国と日本の友好交流に対する伸一のこれまでの取り組みを高く評価していた。

 「山本先生は、中日両国人民の友好関係は、どんなことがあっても発展させなければならないと、訴えてこられた。私としても、非常に嬉しいことです。

 中日友好は私たちの共通の願望です。共に努力していきましょう」

 静かな話し方ではあったが、総理の声には力がこもっていた。

 伸一は、その言葉に、中日友好の永遠の道を開こうとする、総理の魂の叫びを聞いた。また、平和のバトンを託された思いがした。



引用文献: 注 エッカーマン著『ゲーテとの対話』山下肇訳、岩波書店