小説「新・人間革命」 信義の絆44  12月20日

キッシンジャーは、日々、辛酸をなめながら、感傷にも、憎悪にも、悲観にも左右されない強い人間に、自分を鍛え上げていった。

 ハーバード大学で学位を取得して、国際政治学者として頭角を現し、やがて教授となった。

 そして、ニクソン大統領の補佐官になると国家安全保障問題を担当し、政治の舞台に躍り出るようになるのである。

 一九七三年(昭和四十八年)には、ベトナム和平協定を推進したことが高く評価され、ノーベル平和賞を受賞している。さらに、この七三年から、国務長官を務めてきた。

 山本伸一は、そのキッシンジャー長官と、世界の平和のために、存分に語り合い、人類の進むべき新たな道を探り出したかったのである。

 長官は、形式的な礼儀作法などにはこだわらない、合理的で、飾らない人柄であった。そして、決して急所を外さず、鋭い分析力をもっていた。至って話は早かった。

 伸一が、日中平和友好条約についての見解を尋ねると、即座に「賛成です。結ぶべきです」との答えが返ってきた。

 語らいのなかで長官は、伸一に尋ねた。

 「率直にお伺いしますが、あなたたちは、世界のどこの勢力を支持しようとお考えですか」

 伸一が、中国、ソ連と回り、首脳と会談し、さらに、アメリカの国務長官である自分と会談していることから出た質問であったにちがいない。

 伸一は言下に答えた。

 「私たちは、東西両陣営のいずれかにくみするものではありません。中国に味方するわけでも、ソ連に味方するわけでも、アメリカに味方するわけでもありません。

 私たちは、平和勢力です。人類に味方します」

 それが、人間主義ということであり、伸一の立場であった。また、創価学会の根本的な在り方であった。

 キッシンジャー長官の顔に微笑が浮かんだ。伸一のこの信念を、理解してくれたようだ。

 会談では、中東問題、米ソ・米中関係、SALT(戦略兵器制限交渉)などがテーマになっていった。

 平和の道をいかに開くか――二人の心と心は共鳴音を響かせながら、対話は進んだ。