小説「新・人間革命」  12月25日 信義の絆48

キッシンジャー国務長官は、笑みを浮かべて、山本伸一に語った。

「また、友人としてお会いしたい。これからも連携を取り合いましょう。アメリカに来たら、ぜひお寄りください」

 この日から、伸一とキッシンジャーの友好は、一段と深まっていった。

 キッシンジャー国務長官を辞めた後も、二人の交流は続き、東京・渋谷区の国際友好会館や聖教新聞社などで、世界の平和を願って語らいを重ねていった。

 そして、一九八七年(昭和六十二年)九月には、二人の対談集『「平和」と「人生」と「哲学」を語る』が出版されたのである。

 また、九六年(平成八年)六月、二人はニューヨークのホテルで会談した。伸一がアメリカからキューバに行き、カストロ国家評議会議長と会見する予定であることを知ったキッシンジャーが訪ねて来たのである。

 当時、ソ連をはじめ、東ヨーロッパの社会主義政権は相次ぎ崩壊し、社会主義国キューバは、国際的に孤立化していた。

 さらに、この年二月には、キューバによるアメリカ民間機撃墜事件が起こり、両国の間には、緊張状態が続いていたのである。

 キッシンジャーは、アメリカとキューバの関係改善を願う真情を述べ、伸一の訪問に、強い期待を寄せたのである。

 伸一は、そのキッシンジャーの心を携えてキューバを訪問し、カストロ議長と会見した。キッシンジャーの思いも伝え、平和への実り多い対話がなされたのだ。

 エマソンは叫ぶ。

「友情と協力はじつにすぐれた要素である。そうだ、人類のうちで最良の人びとがある普遍的な目的のために結合して、偉大な隊列を敷くことは、りっぱな行動である」(注)

 対話は、新しき友情の道を開く。

 友情を結ぶことが、世界を結び、人類を結合させることになるのだ。

 国務省で、キッシンジャー国務長官と会談した伸一は、引き続き、同省内で、前駐日大使のロバート・インガソル国務副長官にあいさつした。

 それから、日本大使館に向かった。訪米していた大蔵大臣の大平正芳と会見することになっていたのである。



引用文献:  注 『エマソン選集4 個人と社会』原島善衛訳、日本教文社