小説「新・人間革命」 信義の絆52 12月29日

山本伸一は、翌一月十四日、アーリントン墓地を訪れ、「無名戦士の墓」に献花した。

 青空が広がっていたが、零下二度の冷え込みである。

 伸一は、失礼になってはならないと、コートを脱いで献花に向かった。寒さで耳が痛んだ。

 彼は思った。

 “ソ連にも、そして、ここにも、多くの若き戦士たちが眠っている。

 戦争には、敗者も、勝者もない。皆が犠牲者なのだ。なんのための戦争なのか! 誰のための戦争なのか!

 いかなる国でも、愛する人を失った遺族の悲しみに変わりはない。人間のなしうる最大の悪は戦争だ。その戦争を引き起こす、「魔性の心」を打ち砕く道を示しているのが仏法なのだ。

 ゆえに、仏法者の使命は、この地球上から戦争をなくすことにある。それを成し遂げることが、この犠牲者にこたえる唯一の道であるはずだ!”

 伸一は、恒久平和を、深く、深く、心に誓いながら、儀仗兵が見守るなか、「無名戦士の墓」に献花し、黙祷した。

 そして、厳粛に題目三唱を三回繰り返した。

 彼は言った。

 「永遠に戦争のないことを祈りました」

 さらに伸一は、墓地内にある、第三十五代大統領のジョン・F・ケネディ、その弟のロバート・F・ケネディの墓を訪れ、冥福を祈った。

 ケネディ大統領とは会談が決まっていたにもかかわらず、実現せずに終わってしまったことが悔やまれてならなかった。

 伸一はこのあと、シカゴ、ロサンゼルス、ハワイを訪問し、一月二十三日、グアムに向かった。

 グアムでは、二十六日に世界五十一カ国・地域からメンバーの代表が集い、第一回「世界平和会議」が開催されることになっていた。いよいよ平和の新章節の幕が開かれようとしていたのだ。

 ジョン・F・ケネディは叫んだ。

 「われわれが結束するとき、新しく協力して行なう無数の事業において、なしえないことは何もない」(注)

 人類が結束して行うべき最大の事業――それは恒久平和の建設である。伸一は、そのための人類結合の「芯」となる絆を創ろうと、固く強く、心に決めていたのである。   (第二十巻終了)