小説「新・人間革命」 人間外交31  4月7日

「ようこそ! ようこそ、おいでくださいました。お会いできて本当に嬉しい」

 トウ小平副総理の弾んだ声が響いた。

 四月十六日、山本伸一人民大会堂でトウ副総理と会談した。四カ月ぶりの再会である。

 会見会場の前でトウ副総理は、満面の笑みで、伸一を抱き締めた。

 トウ小平は、一月の第四期全国人民代表大会で、周恩来総理を補佐する十二人の副総理のうち、筆頭の副総理に就任。療養中の周総理に代わって各国首脳と会見するなど、重責を担っていた。

 この会談には、創価学会の訪中団のほか、日本の外務省のアジア局長も同席していた。

 会談の冒頭、伸一はユーモアを交えて言った。

 「今日は一日本人民として、徹底して話し合いたいと思ってまいりました。何時間でも、何十時間でも、帰れと言われるまでお話しさせていただきます。

 しかし、ご聡明なトウ先生の英知は、難問解決の道を探り出され、語らいは、一、二時間で終わるものと思います」

 伸一は、対立の亀裂が深まる中ソ関係を、改善の方向に向かわせてほしいとの思いでいっぱいであった。

 また、日中平和友好条約を実現させるために、覇権反対の条項を盛り込むことを強く主張している中国側の考えを、正しく認識しておかなければならないと考えていたのである。

 トウ副総理は言った。

 「わざわざおいでいただきましたが、毛主席はご高齢です。周総理は少し健康を損ねております。総理は、多少でも健康が優れていたら、喜んで山本先生にお会いされたと思います。しかし、今回は難しい状況です」

 「はい。よく存じております。昨年、周総理にお会いした折、総理は五十数年前に、桜の季節に日本を発たれたと言われたことが、私は忘れられません。

 それで今回、桜の絵をお持ちいたしました。後ほど、中日友好協会を通してお届けいたします」

 友誼を織り成していくものは、真心と信念の糸である。

 思いやりを紡げ!

 誠実に、また誠実に、心の温もりを込めて、一本一本の糸を紡げ!

 それこそが、最も強き人間の絆となる。