小説「新・人間革命」 人間外交45  4月24日

山本伸一は、シアヌーク殿下に質問を続けた。

 「この五年間で一番辛かったことはなんでしょうか。屈服しなかった信念のバックボーンはなんであったのでしょうか」

 今度は、毅然とした言葉が返ってきた。

 「私は、今日に至るまで、長い間、闘争を続けてきました。

 以前は、フランスの植民地主義と戦いました。クーデターとも戦いました。大国の干渉とも戦ってきました。私は、闘争には慣れています。

 したがって、この五年間も、大きな苦痛を突き付けられてはきましたが、問題ではありません。そんなことは、なんでもないことです!」

 シアヌークという名は獅子の意味をもつという。その獅子の心意気がほとばしっていた。

 「常に奮いて身を顧みず、以て国家の急に殉ぜんとす」(注)とは、中国古代の歴史家・司馬遷が指導者の資質を評した言葉である。

 

 わが身のことを思わず、常に奮い立って国家の危機に身をなげうって働いてこそ、真の指導者なのだ。

 さらに殿下は、こう決意を披瀝した。

 「私は、外国の侵略とは、どこまでも戦っていきます」

 そして、世界の平和を脅かし、小国の権利を踏みにじる大国の行動について、厳しく非難したのである。

 伸一が、今後のカンボジア社会の建設について尋ねると、確信のこもった声で答えた。

 「強大な敵に打ち勝つことのできた、その力が建設に向けられていく時、農業・工業を進歩・発展させ、経済的にも繁栄できるにちがいありません。

 カンボジアは、政治的には非同盟政策をとることで、独立を守り通していきます」

 また、殿下は、一貫してカンボジア王国民族連合政府を支援してきた中国に対しては、深い感謝の念をもっていた。

 殿下と周恩来総理の友情が話題になった。伸一も周総理と会見しているだけに、話は弾んだ。

 殿下は言った。

 「ここに、私が今回、周総理あてに認めた感謝の手紙があります。その写しを、そのまま会長にお渡しします」

 伸一は殿下が自分に、厚い信頼を寄せてくれていることを感じた。



引用文献: 注 班固著『漢書 第8冊』中華書局(中国語版)