小説「新・人間革命」 人間外交62 5月15日

山本伸一の一行は、この日の午後、上海の名門校・復旦大学を訪問した。

 そこには、緑に包まれた美しいキャンパスが広がっていた。梧桐の並木道、緑の芝生、桜の木も花をつけていた。

 校舎も、国際都市・上海にふさわしいモダンな建物であった。

 復旦大学は、一九〇五年(明治三十八年)に創立の復旦公学に始まる、伝統ある中国屈指の総合大学である。

 校舎の入り口には「熱烈歓迎 日本創価学会訪華代表団」と書かれ、大学の首脳、学生たちが、到着した一行を盛大に歓迎してくれた。

 伸一たちは、まず図書館を訪問し、閲覧室や蔵書を視察した。

 ここには、百六十万冊の蔵書があるという。伸一の寄稿やインタビューを掲載した雑誌も置かれていた。また、創価学会青年部による反戦出版もあった。

 それから一行は、教職員、学生との懇談会に臨んだ。

 復旦大学の首脳からは、歓迎のあいさつや大学の概要説明があった。

 この席上、伸一は、日中の相互理解を推進するため、日本語書籍二千冊の寄贈を申し出た。既に、贈書目録も用意してあった。

 彼は、それを読み上げていった。

 「一、日本語書籍二千冊

 右日中両国の善隣友好の増進と創価大学復旦大学間の相互交流の第一歩として謹んで贈呈申し上げます。 

 創価学会会長、創価大学創立者 山本伸一

 北京大学武漢大学に続いて、中国三校目の教育交流の道が開かれたのである。

 また、懇談会では、大学教育の実情について意見交換が行われたが、伸一は通信教育の内容などについて、集中的に尋ねていった。

 創価大学では、翌春に通信教育部をスタートさせようと、盛んに準備を進めていたのである。

 伸一は、学ぶことにかけては、極めて貪欲であった。どこまでも、食い下がるように質問をぶつけていった。

 創価大学に世界最高の通信教育部をつくろうとの情熱が、彼を質問に駆り立てずにはおかなかったのである。

 「安閑としていてはなにも得られない」(注)とは、トインビー博士の警句だ。



引用文献: 注 トインビー著『現代人の疑問』黒沢英二訳、毎日新聞社