小説「新・人間革命」 共鳴音34 6月27日

山本伸一のパリ滞在五日目となった十七日、パリ会館は、朝からヨーロッパ各国のメンバーで賑わっていた。

 欧州友好祭に参加し、それぞれの国に帰る人たちが、伸一に、あいさつにやって来たのだ。

 伸一は、皆で近くのソー公園を散策し、交歓のひと時をもった。

 木々の緑が目に鮮やかであった。赤や黄、白などの花々が、そよ風に揺れていた。

 伸一はセーター姿で、各国のメンバーと記念撮影をし、一人ひとりの近況に耳を傾け、対話を交わした。

 喜びと社会建設の決意を託して、合唱を披露した人たちもいた。

 伸一は語った。

 「各国からおいでいただいて、ありがとう。

 学会の組織は、各人の主体性を生かすためにあり、拘束するためのものではありません。

 創価学会という組織のなかに個人があるのではなく、個人の心のなかに創価学会があるんです。

 つまり、創価学会員であるという自覚こそ、個人の良心の要であり、勇気の源泉となるんです。

 求道心を燃やし、指導を求め、また、団結していくことは大事ですが、あとは、自由に、伸び伸びと、自分らしく、自他ともの幸福のために頑張り抜いてください。

 では、また、お会いしましょう!」

 それから彼は、フランスの中核の一人である、画家の長谷部彰太郎の家へ向かった。

 伸一は、世界のどこにあっても、時間の都合さえつけば、メンバーの家を訪ね、激励するように心がけてきた。

 家庭を訪問すれば、その人の暮らしや、置かれた状況、また、苦労さえもわかるものだ。相手のことを、深く理解する手がかりと

なる。

 ゆえに、人材を育成していくには、家庭訪問し、直接、語り合うことが肝要となるのだ。

 組織での人のつながりが、文書などによる行事等の連絡だけで終わってしまうならば、生命の触発や共感をもたらしていくことは

できない。

 ただし、相手の家庭の事情もある。玄関先のあいさつだけですませた方が価値的な場合もある。

 いずれにせよ、相手の側に立った、聡明な判断を下しつつ、心と心を結び合う努力、工夫が求められよう。