小説「新・人間革命」 共鳴音35 6月28日

長谷部彰太郎の家は、パリ会館から車で、西に一時間ほどのところにあるという。

 長谷部は、前年、来日した折に、フランスに家を買うべきかどうか、山本伸一に相談した。

 伸一は微笑みながら言った。

 「もう家を買えるぐらい、絵が売れるようになったんだね」

 「いいえ、将来の方向性を考えるうえで、お伺いしたいのですが……」

 「将来ではなく、すぐにでも買える境涯になってください。

 私は、あなたが家を買うことに賛成です。フランス社会で信用を勝ち得ていくには、フランスに家を持ち、地域に根を張り、信頼を獲得していくことが大事だからです。

 それには、断じてフランスに家を購入するぞと決めて、真剣に祈ることです。

 しかし、ただ家がほしいというだけでは、祈りは、なかなか叶わないかもしれませんよ」

 長谷部は、意外な顔をしながら尋ねた。

 「何か、祈り方があるんでしょうか」

 「あります。フランスの人びとの幸福と繁栄のために、広宣流布誓願し、祈り抜いていくことです。

 たとえば、“私はフランス広布に生き抜きます。それには、社会の信用を勝ち取るためにも、皆が集える会場にするためにも、家が必要です。どうか、大きなすばらしい家を授けてください”と祈るんです。

 人びとに絶対的幸福の道を教える広宣流布を誓い、願う題目は、仏の題目であり、地涌の菩薩の題目です。

 その祈りを捧げていく時、わが生命の仏界が開かれ、大宇宙をも動かしていける境涯になる。ゆえに、家を購入したいという願いも、確実に叶っていくんです。

 それに対して、ただ大きくて立派な家をくださいというだけの祈りでは、自分の境涯はなかなか開けない。だから、願いが成就するのにも時間がかかります。

 祈りの根本は、どこまでも広宣流布であり、広布のためにという一念から発する唱題に、無量無辺の功徳があるんです」

 広宣流布誓願のなかにこそ、所願満足の道があるのだ。

 長谷部は、何度も頷きながら、伸一の話を聴いていた。