小説「新・人間革命」 共鳴音36  6月30日

山本伸一は、最後に長谷部彰太郎に約束した。

 「もし、あなたがフランスで家を購入したら、私も必ず訪問させてもらいますよ」

 「本当ですか! ありがとうございます」

 長谷部は、断じて家を買おうと思った。

 しかし、画家である彼には定収はなく、預金もほとんどなかった。そんな外国人である自分に、銀行がローンを組んでくれるとは思えなかった。

 それでも長谷部は、山本会長の指導通りに懸命に祈り、物件を探した。

 家にはアトリエも必要であり、メンバーが集まって会合が開ける部屋もほしかった。かなり大きな家でなければならないことになる。

 また、緑がふんだんにあり、川や湖の近くに住みたいと思った。

 長谷部は、来る日も来る日も、必死になって祈り続けた。

 すると、パリの郊外に、売りに出ている大きな家が見つかった。

 周囲には小高い丘や森もあり、家の前にはセーヌ川が流れていた。願ってもない美しい景観であった。

 長谷部は気に入った。だが、問題は金額であった。頭金となる総額の一〇パーセントは、なんとか工面できそうであったが、残りの九〇パーセントをどうするのかと思うと絶望的であった。

 仮に銀行ローンを組んでもらっても、銀行の金利は高く、毎月、返済していけそうになかった。

 ところが、幸いにも、公的な金融機関が、頭金以外の全額を融資してくれることになったのだ。

 そして、なんと、伸一が訪問する一カ月ほど前に、家を購入することができたのである。

 日寛上人は宣言されている。「則ち祈りとして叶わざるなく」と。

 戸田城聖は叫んだ。

 「純真な信心には、功徳があることは、絶対に間違いないことである」

      伸一は、長谷部との約束を果たすために、正午過ぎにソー公園を出て、彼の家に向かった。

 この日は、土曜日であり、パリ市内から郊外に向かう人が多く、道路は渋滞していた。

 車で一時間ほどの道のりと聞いていたが、到着したのは午後三時前になってしまった。

 「いやー、遠かったよ」

 車を降りた伸一は、笑顔で語りかけた。