小説「新・人間革命」 共鳴音37  7月1日

山本伸一を出迎えた長谷部彰太郎は、恐縮して言った。

 「お疲れのところ、わざわざ、こんな遠くまで来ていただいて、本当にありがとうございます。

 どうぞ、こちらへ」

 長谷部は、伸一と峯子を、まず庭に案内した。

 長谷部の家には、たくさんのメンバーが集まっていた。

 庭は緑に囲まれ、芝生が広がっていた。敷地は約三千平方メートルほどあるという。家は石造りで、バルコニーがあり、とがった屋根をもつ立派な建物であった。

 周囲の木々は新緑に光り、庭から眺めるセーヌ川は、銀の帯となって広がっていた。

 伸一は言った。

 「すばらしい家だね。お城のようです。本当によかった。功徳だね」

 伸一にとっては、同志が功徳を受け、幸福になっていくことが、最高最大の喜びであった。

 「ところで、この庭の名前はあるんですか」

 「はっ、庭の名前ですか? ありません……」

 「せっかくだから、名前をつけましょう。名をつけることで、愛着も意義も深まります。

 セーヌ川がよく見える、向こうの庭は『セーヌの庭』、こちらの庭を『長谷部ガーデン』にしてはどうですか」

 長谷部は顔をほころばせて言った。

 「ぜひ、そうさせてください!」

 「では、そうしましょう。帰国したら、この庭に置けるように、その名を書いた記念碑を二つ、お送りしましょう。せめてものお祝いです」

 長谷部は、にわかに信じられず、思わず尋ねてしまった。

 「記念碑というと、石に先生の文字を刻んでくださるんですか」

 「そうです。二つお送りしますよ」

 一瞬、長谷部は絶句した。そして、「ありがとうございます!」と叫ぶように言った。

 伸一は“どうすれば、相手に自分の思いが伝わり、一番喜んでもらえるのか。どうすれば、発心の契機を与え、崩れざる幸福への道を進むことができるのか”と、常に、真剣に考え抜いていた。

 その「励ましの心」こそが、伸一の「毎自作是念」(毎に自ら是の念を作す)であった。

 その必死の一念が触発をもたらし、勇気と希望の共鳴音を奏でるのだ。