小説「新・人間革命」 共鳴音38  7月2日

長谷部彰太郎の家で山本伸一は、集っていたメンバーと共に勤行した。

 そして、庭で一緒にバーベキューを楽しんだ。

 伸一と峯子は、率先して肉や野菜を焼き、皆に配っていった。

 引き続いて、庭で懇談会が行われた。

 メンバーは伸一に、次々と質問をぶつけた。

 妻の病で悩んでいるという青年の訴えもあった。職場での下積み生活に行き詰まりを感じているが、どうすればよいかとの質問もあった。

 伸一は、一つ一つの質問に対して、全力で、誠実に答えていった。

 悩みに押しつぶされそうな眼前の同志を、どう励まし、勇気づけるか。

 暗から明へ、絶望から希望へ、敗北から勝利へ、いかにして一念を転換させるか――それができてこそ、広宣流布のリーダーである。そのためにこそ、幹部がいるのだ。

 伸一は、一人ひとりへの激励に、大きな会合での指導の何倍、何十倍もの精力を費やしてきた。それがあったからこそ、学会は強く、広宣流布の大前進があったのだ。

 時刻は午後五時を回っていた。伸一は、夜はパリ会館での勤行会に出席することになっていた。

 彼は直ちにパリに戻った。そして勤行会のあと、ここでも懇談会をもったのである。

 生きるとは、力の限り戦い続けることだ――それが伸一の哲学であり、信念であった。

    

 伸一が長谷部の家を訪問した五月十七日から三カ月が過ぎたころ、約束通り長谷部のもとに、二つの石碑が届いた。

 両方とも幅六十センチ、高さ四十センチほどの見事な石碑であった。

 一つの石碑には、「長谷部ガーデン」、もう一つの石碑には「セーヌの庭」という、伸一の毛筆の文字が刻まれていた。

 どちらの石碑にも、裏には「ヨーロッパ広布の先駆者 長谷部彰太郎君に贈る 一九七五年五月十七日 伸一」と彫られていた。

 その文字を見ながら、長谷部は男泣きした。

 “ここまで真心を尽くしてくださるのか……。

 ぼくは、必ず先生のご期待に応えよう。広宣流布の立派な指導者に育とう。画家としても絶対に大成してみせる。先生、見ていてください!” 

 石碑を前に、長谷部は誓ったのである。