小説「新・人間革命」 共鳴音42  7月7日

レイモンド・ゴードンは、仕事の関係で、住居を東京に移し、信濃町に家を借りた。

 彼は、ここで信心することを決断した。一九七一年(昭和四十六年)七月のことである。

 さらに、知人の日本人女性と結婚した。

 小説『人間革命』を渡し、彼に仏法を教えてくれた人である。

 ゴードンは、かつて結婚したことがあったが、離婚して独り暮らしを続けていたのだ。

 入会した彼は、自宅を外国人のための「国際座談会」の会場に提供し、そこで自分も、懸命に仏法を学んだ。

 この「国際座談会」の話は、山本伸一の耳にも入っていた。

 伸一は思った。

 “ぜひ、会場を提供してくださっている、そのイギリスの方とお会いして励ましたい”

 しかし、ゴードンは商用で海外出張が多く、伸一が彼と会う機会は、なかなか訪れなかった。

 伸一がゴードンと会えたのは、七二年(同四十七年)春、パリを訪問した折であった。ゴードンは、商用の途次、夫人のミツエと共に、伸一のいるパリの会館を訪ねてきたのである。

 伸一は、会館の庭で両手を広げ、包み込むように温かく歓迎した。

 「ようこそ! お会いできて嬉しい。

 私たちは同じ信濃町に住んでいるんですから、困ったことがあったら、なんでも相談にきてください」

 そして、生命を注ぐ思いで、励ましの対話を重ねた。対話は魂を触発し、使命を開花させる。

 伸一は、世界各国に仏法の平和思想を根付かせるために、それぞれの国の人のなかから中心者を出せるように、人材を見つけ、育てることに懸命であったのだ。

 この年の夏、伸一は、夏季講習会で再びゴードンと会った。一緒に勤行したあと、彼に言った。

 「次は、どこでお会いすべきか、考えていました。今度は、ロンドンではいかがでしょうか」

 「それはグッド アイデアです」

 ゴードンは、伸一の言葉には深い意味があるように思えた。その日から彼の思索が始まった。

 “山本先生は、私がイギリスに帰って頑張ることを期待されて、あのように言われたのではないだろうか……”