小説「新・人間革命」 共鳴音43 7月8日

レイモンド・ゴードンは考え、悩んだ。

 “もし、イギリスに帰るとなれば、今のスポーツ用品会社の取締役という職は失うことになる。向こうで今以上の収入がある、安定した仕事に就くことは難しい。

 しかし、イギリス社会に仏法を伝え、人びとの幸福と平和のために貢献していくことが、私の真の使命ではないのか”

 彼は、真剣に唱題し、熟慮を重ねた。

 彼が中心となって開かれていた「国際座談会」も充実していった。

 座談会を始めて一年間で、世界六十一カ国・地域、約三百人の友人が出席し、三十人が入会している。

 このゴードン宅では、地元組織の座談会も行われていた。

 山本伸一の妻の峯子も、その座談会に出席し、ゴードンの妻のミツエを温かく激励している。

 ゴードンは、信心に励むなかで、イギリスの広宣流布に生きることを、遂に決断した。

 “私の祖国には、まだメンバーが少ない。私が学会の本陣である信濃町で活動し、信心を学んだのは、イギリスの人びとのために立ち上がるためではないのか!”

 妻のミツエは、日本に住むことを結婚の条件としていた。しかし、彼の思いを聞くと、イギリス永住を決意し、夫に帰国を促した。

 日蓮大聖人が仰せのように、まさに「をとこ(夫)のしわざは め(婦)のちからなり」(御書九七五ページ)であった。

 一九七四年(昭和四十九年)の初め、ゴードンは伸一に、イギリスに帰ることを報告した。

 いよいよ出発が間近に迫った二月末、伸一は、夫妻を食事に招いた。

 ゴードンは言った。

 「先生、ロンドンでお会いできる日を、イギリスのメンバーと共に、唱題しながらお待ちしています」

 「世界中で、そう言って、皆が題目を唱えて引っ張るので、私の体は、ちぎれそうなんですよ」

 伸一のジョークに、笑いが広がった。

 それから、伸一は、力を込めて語った。

 「一つだけ約束してください。どんなに苦しいことがあっても、決して退転しないことです。生涯、学会から離れないことです。大丈夫ですね」

 夫妻は大きく頷いた。