小説「新・人間革命」  共鳴音44 7月9日

山本伸一がゴードン夫妻と歓送の会食をしてから、一年余りが過ぎていた。今、ゴードンは、イギリスの理事長として、伸一を迎えたのである。

 メンバーの信頼も厚かった。

 しかし、日本での安定した生活を捨てて、イギリスに戻ったゴードン夫妻の生活は、決して楽ではなかった。

 このころ彼が勤めていた会社の給料は安く、靴の底がはがれても買い替える余裕もなかった。自宅の冷蔵庫の中は、空っぽのことが多かった。

 会合に行く妻のミツエに、渡すバス代さえないこともあった。

 労苦なき建設はない。その労苦こそ、功徳、福運の種子となるのだ。

 ゴードンは負けなかった。大英帝国の闘将は、平和と幸福の広宣流布の大将軍となって、民衆の大地をひた走った。

 そして、イギリス社会に真実の仏法を根付かせ、その後の発展の基盤を築いていくのである。

 ロンドン市内で行われた代表者会では、最後にメンバーの有志十六人が「今は五月だ」などの合唱を行った。十六日にパリの欧州友好祭にも出場し、歌を披露したメンバーである。

 見事な歌声を讃える拍手は、やがて「アンコール!」の声と一体となって響き渡った。

 そのなかで、伸一はマイクを取った。

 「ありがとう。心から感動しました。皆さんの歌声、そして、その真心は、生涯、忘れません。

 今、合唱をしてくださった皆さんで、正式に合唱団を結成してはどうかと思いますが、いかがでしょうか」

 賛同の拍手が、一層、大きく鳴り響いた。そして、アンコールのあと、さらに伸一は語った。

 「もし、よろしければこの合唱団の名を『ロンドン五月合唱団』としてはどうでしょうか。

 合唱してくださった歌も五月の歌。私の訪英も七二年、七三年、そして今年も五月です。私の会長就任も五月でした。

 春五月は、まさに希望の季節です。それらの意味を込めての命名です。

 イギリスに幸福の春を呼びましょう!」

 再び大拍手が起こり、歓声があがった。

 伸一とメンバーの心と心は一つにとけ合い、皆の胸に喜びの花が咲き、希望の虹が広がった。