小説「新・人間革命」 共鳴音45 7月10日

 翌十九日午前十時、山本伸一と峯子は、川崎鋭治らと共に、ロンドン市内の王立国際問題研究所を訪ねた。トインビー博士が、長年、執務し、国際問題の研究に携わっていた研究所である。

 博士を支えてきたルイーズ・オール秘書の柔和な笑顔が、伸一たちを迎えてくれた。

 伸一は、トインビー博士との連絡など、彼女の尽力に感謝するとともに、博士へのお見舞いの言葉を述べた。

 そして、博士と伸一の対談集『二十一世紀への対話』(日本語版)の特装本を手渡した。

 「トインビー先生の英知の歴史的な所産をとどめていただきました。また、西洋と東洋の意義深い語らいでもあります。

 先生に、心より御礼申し上げます」

 続いて伸一は、創価大学教授会が決定した、トインビー博士への創価大学名誉教授称号の証書を託した。

 「これは、私の創立した創価大学が、先生の人類史への文化的貢献と学術的功績を讃え、最大の敬意を表してお贈りするものです」

 さらに伸一は、トインビー博士とベロニカ夫人へのメッセージを託した。そこには、博士の健康回復を願う気持ちと、夫妻への深い感謝の思いが記されていた。

 オール秘書は、トインビー博士が前年の八月から病床にあり、当分、回復は難しい容体であることを伝え、こう語った。

 「山本会長の真心の品々は、私が責任をもってお渡しいたします」

 伸一は言った。

 「ありがとうございます。トインビー先生と対話を重ねた日々は、私にとって最高の黄金の思い出です。永遠なる不滅の財産となっております。

 対談の最後に、先生は『人類全体を結束させていくために、若いあなたは、このような対話を、さらに広げていってください』と言われました。

 その言葉を、私は生命に刻みつけております。どうか、先生にこうお伝えください。

 『トインビー先生の教えを受けた弟子として、私は戦います。世界を駆け巡って、命の限り、対話を重ねます。人類を結ぶために――。ご安心ください』と」

 凜とした決意の言葉であった。精神を受け継ぐ行動こそが、思想を結実させるのだ。