小説「新・人間革命」 宝冠9  7月24日

山本伸一は、最後に、「ショーロホフ先生が一日も早く健康を回復されますよう、心よりお祈り申し上げ、ごあいさつとさせていただきます」と述べ、話を結んだ。

 伸一がユーモアを交えてあいさつしたことから、座の雰囲気は大きく変わった。皆がジョークを言うようになった。

 続いてあいさつに立ったイギリスの作家は語った。

 「ショーロホフ氏は、人を冷やかすのが好きなんです。私の友人も、私自身も、よく彼に冷やかされました。

 だから彼が元気になったら、冷やかされる前に、くたくたになるまで飲み、酔ってしまおうと思っております」

 また、ルーマニアの作家は、ショーロホフの声色を真似ながら言った。

 「君たちは、私について、いろいろと勝手なことを言っているが、問題は、その中身なのだよ。このショーロホフ並みの含蓄ある話をすることだ!」

 笑いと拍手が一斉に起こった。

 主役のショーロホフ抜きで、大いに盛り上がりを見せたレセプションとなった。

 誰もが彼を愛し、慕っていることがよくわかった。それはショーロホフの、公平で屈託のない人柄、人格によるものであろう。

 人格は光である。その輝きに触れて、人は心に、安らぎと希望をいだくのだ。

 自身の生命を磨く信仰の実践は、人格革命となって表れなければならない。

 

 引き続き午後五時からは、ショーロホフ生誕七十周年の記念式典がボリショイ劇場で盛大に行われた。

 山本伸一たちの一行は、舞台に向かって右手の特別席に案内された。会場は、何層もの観客席からなり、その優雅で荘厳なたたずまいは、誇り高き伝統を感じさせた。

 席上、国民的英雄であるショーロホフにレーニン勲章が贈られたことが発表された。そして、労働者や農民、モスクワ大学の学生など、各界の代表が祝福のあいさつに立った。