小説「新・人間革命」宝冠11  7月26日

休憩のあと、ショーロホフ生誕七十周年の祝賀の舞台が始まった。

 バレエやコサックの踊り、合唱などが次々に披露された。どの演技も秀逸であり、文学の英雄ショーロホフの七十歳の誕生日を祝う喜びにあふれていた。

 山本伸一も、峯子も、惜しみない拍手を送り続けた。

 式典が終わり、ホテルに戻る車中、伸一は峯子に言った。

 「ショーロホフ先生には、ともかく、早くお元気になっていただきたいね」

 峯子は頷きながら答えた。

 「本当に、そうですね。

 ショーロホフ先生は、ソ連を代表する作家であるばかりでなく、世界の文豪なのだと、しみじみ思います。先生の愛読者は、社会主義の国だけでなく、日本にもたくさんおりますでしょ。優れた文学には、国境も、イデオロギーの壁もないんですね」

 「そうなんだよ。ショーロホフ先生は、かつてこう言われている。

 『すべての作りもので不自然なもの、すべての虚偽のものは、時間の経過とともに消えさり、長くは生きられないでしょう』(注1)

 真理の言葉だと思う。

 イデオロギーを宣揚するだけの作品ならば、社会体制を超えて、人びとの感動を呼ぶことはないし、やがては消えてしまう。

 また先生は『真実のみを書くことです』(注2)とも述べている。これは文豪ショーロホフの文学的信念だ。『静かなドン』にせよ、『人間の運命』にせよ、ショーロホフ文学には人間の真実が描かれている。だから、世界中の人びとに親しまれ、愛されているんだ」

 峯子は瞳を輝かせて語った。

 「創価学会が強いのも、そこに真実があるからだと思いますわ。学会には、人間の蘇生のための励ましがあり、生命の連帯があります。歓喜と幸福の実像があり、本当の仏法があります。その真実は、どうやって否定しようとしても、否定しきれませんものね」



引用文献:  注1、2 中本信幸著「ショーロホフとの対話」(『文学』1966年8月号所収)岩波書店