小説「新・人間革命」 宝冠13  7月29日

山本伸一がスポーツ施設を視察した二十四日、ソ連は、有人宇宙船ソユーズ18号を打ち上げた。翌二十五日には、そのニュースが日本にも流れた。

乗船しているP・I・クリムク船長とV・I・セバスチヤノフ飛行士は、気分は良好で、順調に飛行していることが伝えられた。

 米ソは、七月には両国の宇宙船をドッキングさせ、共同の実験飛行を行うことを計画していた。これは、一九七二年(昭和四十七年)の米ソ首脳会談で決まったものである。

 米ソは、それぞれ、ドッキングのための実験を重ねてきた。今回のソユーズ18号の打ち上げは、米ソ共同実験飛行の本番を前に、ソ連の軌道科学ステーション・サリュート4号とドッキングさせるための実験であった。

 山本伸一は、モスクワにある宿舎のロシアホテルで、テレビから流れる、ソユーズ18号打ち上げ成功のニュースを見ながら、七月の米ソ宇宙船のドッキングに思いを馳せた。

 近年、米ソ関係は緊張緩和の時代に入っていた。しかし、この年一月、ソ連が米ソ通商協定の破棄を通告するなど、両国の関係は、決して良好であるとはいえなかった。

それだけに伸一は、米ソ宇宙船のドッキングに期待し、成功を祈っていたのである。

 米ソ宇宙船の共同飛行が成功すれば、緊張緩和の象徴となり、宇宙での国際協力から、新たな米ソの、そして、東西両陣営の協力の流れが開かれていく可能性があるからだ。

 伸一は、確信していた。

 “宇宙船から見た地球には、国境も、社会体制による色分けもない。青く輝く、たった一つの人類の故郷だ。

 米ソの宇宙飛行士たちは、美しき地球を見ながら、このかけがえのない星を、力を合わせて守ろうと思うにちがいない……”

 憎悪、戦争は波及する。しかし、協力、平和も波及するのだ。人間の協力がもたらす感動は、イデオロギーの壁を超えて、心から心へと波動していくにちがいない。それが見えざる平和の潮流となることを彼は願った。